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伯爵令嬢サディアの失恋【完結】【6/16おまけ話追加】  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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第23話 ロバート③ (ロバート編 最終回)


元々俺は、貴族学院に入学するつもりはなかった。デライザを支えるために、貴族学院での学習内容は、十五歳になる前にすでに全部学び終えていたし。


だけど「ロバートはちゃんと学院に通ってね。あたくしは、大人しくお留守番しているから」とデライザに言われた。


「……俺は学院なんかに行かないで、デライザの側に居たいんだけど」

「ううん。通って。あたくしには無理だから、ロバートが通って、それで、あたくしに学院でのお話を聞かせて?」

「……わかったよ」


ティルベリー侯爵との相談の上、俺は貴族学院に通うことにした。

デライザは今十三歳になったところ。十六歳になったら……デライザは。

……あと三年で、デライザが学院に通えるほどに健康になるとは思えない。

なら、せめて、学院の様子を伝えるだけでも。


そう思って、学院に通い始めて……。通学はデライザの希望でもあったのだけれど、それまで朝も昼も夜もずっと側に居た俺が不在になることによって……、デライザの不安が増していった。


それでも、デライザは基本的には良い子だから。

ロバートが学院に通えるのにあたくしは通えないのねとか、健康な体が羨ましいわとか、言っても仕方がないような愚痴は言わなかった。


ただ……ナーバスになる日が増えた。


俺が、学院に行っている間、ずっと泣いているとか。


「泣くくらいさみしいんだったら、学院なんて休んでいいぞ? 二日三日、休んだところで成績は落ちないし」

「……ダメ。学院、行って」

「でも泣くし」

「だって、怖い」

「何が怖い?」

「……ロバートがあたくしの側に居ない間にあたくしが一人で死ぬことが」

「デライザ……」

「側に居てほしいの。一人は嫌なの。だけど、ロバートを縛るのはもっと嫌! 普通に学院に通って、当たり前に生活して……それで、その話を、楽しい話を、あたくしにたくさん聞かせてほしい」

「側に居てほしい時は、側に居る。一日くらい学院を休んだっていい。デライザが大丈夫な時は、学院にちゃんと行く。行って、楽しいこととかつまらないこととか馬鹿みたいなこととか、全部デライザに話すよ」


この程度の話をしている間はまだ良かった。

次第に……デライザは……「あたくしが死んだら、ロバートは健康な女の子と人生をやり直してね」などと願うようになった。


「それで、ふたりであたくしのお墓参りに来てね。あたくしはしあわせなロバートを見てしあわせになるから」

「できればあたくしの……デライザは嫌だから、エリザベスの方の名前を……生まれた娘さんにつけてくれると嬉しいわ」


デライザが死んだあとのしあわせな俺を夢想するようになった。


そうだね、そうするよ。


言ってあげられれば、よかった。

デライザの気持ちが安定するなら、全部、叶えるよって言ってやれれば良かった。


でも……。


「それ、無理」

「え?」

「デライザが死んだら、葬式をしてすぐに俺はデライザの後を追いかけるよ」


言わなければよかった。

だけど、発した言葉は消えない。


俺は、失敗した。

言い方を間違えた。


デライザの頬を涙が伝った。


後悔しても遅い。


壊れないように。

壊さないように。

気をつけていたつもりが……しくじった。


ごめん、デライザ。

だけど……。


デライザが死んだ後、俺がしあわせに生きるなんて、ありえないんだ……。




その日から、デライザの様子が少し変わった。


何かを考えている。

じっと、静かに。


デライザは急激に大人になったような気がした。

落ち着いた雰囲気、高位令嬢らしい言動。

一気に何年も成長したみたいで……。

俺は、ものすごく不安だった。


そうして、言った。


「あのね、ロバート。あたくし、貴族学院に行ってみたいわ」

「入学して通いたいっていうことか?」

「ううん。今、見てみたい。ロバートが話してくれること、もっとよくわかるように」


なんとなく、嘘までではないけれど、言い訳のような気がした。


「……ちょうど来月。秋のお祭りがあるよ。一般参加も可能」

「わあ! お祭り?」

「ああ。公爵や医者の許可が取れれば……。ほんの少し、雰囲気を味わうくらいは……」


人混みは……正直に言えば、不安だ。

だけど、館に閉じこもって、ナーバスになる日がずっと続いている。だったら、あまり人が大勢はいないところだけでも、さっと見るくらいなら……。

祭りを見た後、数日寝込むことも想定するけれど……。


「お父様とお母様、それからお医者様に頼むわ! あたくし、秋のお祭り、行きたいの!」


少し落ち着いて、前向きになってくれるのなら、外出くらい……とは思った。


だけど、違った。


このときのデライザは、自分が死んだあと、俺を託せるご令嬢を……自分の目で探したい、そういうつもりで貴族学院に行くなんてことを考えていたのだ。



そして、そんなデライザの関心を引いたのが……サディア・マーガレット・ラズダン伯爵令嬢。


俺のことを初恋だと言ってくれた女の子。


彼女のおかげで、デライザのナーバスさ加減は……ものすごく吹っ飛ぶことになる。


いやはや。


サディア嬢……、今はもう、エリザベスと名乗っているが、ベスはすごい。尊敬する。ベスがいてくれて本当によかった……。




「ねえ、サディアさん。あなた、ロバートが好きでしょう?」

「はい。わたしの初恋です」


淡々と答えたサディア……今はエリザベス。


「あたくしの代わりに、ロバートを愛してくれるでしょう?」

「いいえ。お断りします」




それからのことはもう……言葉にならない。

サディア嬢……今はベスだが……は、まるでハリケーンのようだった。




「いいですか、デライザ様。どこかの誰かをロバート様に宛がおうとはしないで、デライザ様が生き延びればいいんです」

「……無茶言わないで」

「お医者様にも聞きました。デライザ様のご病気について、わたし、学ばせていただきました。無理のない程度の運動で体力を保ちつつ、血圧が上がるようなことは絶対にしない。十年生き延びたら、次の十年。そうやって、デライザ様がお婆ちゃんなるまで生き延びていただきます!」

「無理っ! 無茶よ!」

「無理でも無茶でもありません! このサディア、いえ、もうエリザベスですね、わたしが何としてでもデライザ様を生きのびさせますとも! そのうち、仮に妊娠出産をしたとしても、お子様とデライザ様お二人が共に生き延びる未来を掴んでみせます!」

「ええええええー⁉」




そうして、エリザベスは、デライザの専属医師に師事し、病状を学んで、食事を改善して、健康食を求めて他国まで向かった……。


ものすごい行動力だな……。



「エリザベスが出国してしまうのは、あたくしのためだと分かっているけど、何年も会えなくなるのはさみしい……」と泣いて。

デライザはエリザベスを船着場まで見送りに来ることはできなくなってしまった。

代わりに俺が、エリザベスを見送る。


「ありがとうございます、お見送り」

「いや、ほら、デライザの代わりだよ」

「……わたしが出国するからって、泣かれましたからね……。体調、どうですか?」

「ああ、まあ。大丈夫だよ。ベスが来てくれてから、ずいぶんと丈夫になったし。泣いたくらいじゃ寝込まなくなった」


エリザベスが館に来てから、それはもう、デライザの体調は劇的に変わった。

滅多に発作は起こさなくなったし、毎日庭の散歩もできる。

無理は、絶対にさせないが、それでも、気を付けていれば、ごく普通に過ごせるようになってきた。

もちろん病気が治ったわけじゃない。

医師は体調管理がきちんとできているのと、デライザの身体も大人に近づいているから、安定しているのだろうとの見解を示した。

もちろん、油断は禁物なのだが。


「そりゃあもう! お嬢様にはご健康になっていただかねば! そのためにわたし、行くんですし!」

「ああ、コンブ? とか? 海藻? デライザの身体のために良いとか何とか」

「はい。製法、使い方。いろいろ教わって、物資は先に送りますね。使い方、メモ書きもして」

「頼む」

「それから、医療先進国、いくつか巡ってきます。なんとしてでもお嬢様には健康になっていただいて、無事に妊娠出産していただきたい」

「おっ、おおおおおおおいっ! ベスっ!」

「昨日、知ったばかりの情報なんですが。だから、まだお嬢様にも言ってはいないんですけど。医療先進国にはテイオウセッカイとかいう出産の技法があって。それであれば、もしかしたら、お嬢様のお体にご負担が最小限で出産ができるかもしれません」

「ベス……」

「出産しても、お嬢様が死なない。そんなことが可能なら……」

「ああ……」

「ロバート様も嬉しいでしょ?」


嬉しいなんて言葉では言い表せない。


「……ベスは……、天使か? 女神か?」


言いながら、不覚にも泣きそうになった。


「大袈裟ですねー。あ、でも天使は嫌いなんで!」

「あはははは、そうだったな!」


笑い飛ばす。

不安を。

孤独を。

寂しさを。

ベスは、俺とデライザの……神様のようだ。


「それから女神様っていうのなら、お嬢様がわたしの女神ですね! 女神のしあわせのためなら、海を越え山を越え! どこまでも行きますよ!」

「ありがとう、頼む」

「もちろんです!」



まるで太陽のような輝く笑顔。


頼む、ベス。


いつまでもいつまでも、そうやって俺とデライザを照らし続けてくれ。


そして、いつか。


俺とデライザと……俺たちの子どもが。

ベスとベスの夫と、二人の子どもが……、一緒に手を取って笑いあう未来を……いつか、見せてくれ。


そんな未来が現実になるまで、俺は、デライザと一緒に……しあわせな未来を祈るから。何度も何度も祈るから。



「行ってきまーっす!」

「ああ、ベス。帰りを待っている!」

「はーい!」


海が、キラキラと輝く。


船が、出航する。



未来は明るいのだと、君がいるから信じられる。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




ロバート編、終わり。




次回はエリザベス編です。


数年後のお話の予定です。

「いつか」に向かって突き進むベス。

ただ今設計図引いたり、登場人物の誰が何歳で何をしたとかの年表作ったり、地図とか作っているところです。

投稿開始するまでお待ちいただけると幸いです。






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