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伯爵令嬢サディアの失恋【完結】  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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第18話 エリオット⑤



貴族学院を卒業してしばらくして、ボクはお見合いをさせられた。


最初にグレインジャー伯爵家のマーシャ嬢。


ボクは、開口一番に言った。


「ボクは……、君を愛することはないよ……」


だから、結婚は止めにしたほうが良い。ボクのお父様とお母様は乗り気でも、ボクは無理。いなくなったサディアのことがいつまでも気にかかって、仕方がないから。


グレインジャー伯爵家のマーシャ嬢は怒って席を立った。


次にお見合いをさせられたのは、ディーリー男爵家のフランチェスカ嬢。


フランチェスカ嬢は「ボクが君を愛することはないよ……」と言った途端に冷笑した。


「エリオット・ウィリアム・ヘンストリッジ伯爵令息、あなた馬鹿なの?」

「え……?」

「愛らしいのは顔だけで、中身は空気しか詰まってないの? それともスカスカの海綿?」

「は……?」


空気? 海綿? 何の話?


「あのねえ、そっちは伯爵家、こっちは男爵家。こっちから婚約を断ることなんて、できないの。しかも、両家とも両親たちは乗り気だし」

「え、えっと……」


冷めた目で、ボクは見られた。

戸惑うだけのボク。

フランチェスカ嬢は容赦なかった。


「お見合い相手のあなたのことは色々調べさせたわよ。学院内での出来事とか、あなたが幼少の時から貴族学院の卒業まで、ご令嬢やご婦人方にちやほやちやほやされて、それを当たり前に受け止めていた甘ちゃんだとか」

「あ、あま……ちゃん……?」

「あら、ごめんなさい? 下々の言葉なんて、伯爵令息様はご存じなかったかしら?  

 考え方や行動が甘く、未熟で厳しさに欠ける人を指す俗語よ」


考え方や行動が甘くて未熟……。言われてみればそうだけど……。傷つく……。


「それからねえ、グレインジャー伯爵家のマーシャ嬢とのお見合いの顛末も知っているわ。あなた、マーシャ嬢に言ったんですって? 『ボクはサディアが帰って来るのを待っているんだ。だから……、結婚はしても、君を愛せないよ』でしたかしら? それでマーシャ嬢を怒らせたのにあたしにも同じセリフを言うなんてホント馬鹿」


な……、何で、知っているんだ?

確かにそう言ったけど。


フランチェスカ嬢は「ふふん!」と笑った。


「大馬鹿なのねーアンタ。失踪した幼馴染を待っているだけ! 探しもしないで! ああ、ボクってかわいそう、だけど待っているからいつか帰って来てねって?」

「だ、だって……、探すって、手掛かりもないのに……」

「手がかりがないから? それが何? あっても探さないでしょう、アンタは!」

「だ、だって……、サディアのご両親だって……、探してもいないし」

「当たり前でしょう? 失踪したのか誘拐されたのか分からない娘なんて、貴族なら当然バッサリと切り捨てるわよ。とっくに除籍もされているんじゃないの? あなたを吊り上げるっていう役目も果たせなかったんだし」

「は……?」


切り捨てる?

除籍?

ボクを吊り上げる……?

フランチェスカ嬢の言葉が、なんて言ったのか、ボクには理解できなかった。


「あのねえ、政略のためだけに育てられるのが貴族の令嬢よ? 失踪や誘拐なんて、瑕疵のついた令嬢はどこにも嫁に出せないの。ゴミも同然なの。要らないの。それにサディア嬢のお母様はあなたにご執心みたいで、娘を使ってあなたを釣りたかったんでしょ? 不発に終わったのなら用済みね」

「そんな……」

「あたりまえよ」


そんなひどい……と言いかけたボクの言葉は……あたりまえと遮られた。


「貴族の娘の扱いなんて、そんなものよ。さっさと捨てて、体面程度は整えないと、娘どころか家の瑕疵になる。社交界で笑いものにされて、一家没落まっしぐらね!」


酷い……けど。ボクには何も言えない。


「それにねぇ、エリオット・ウィリアム・ヘンストリッジ伯爵令息。あなただって、失踪した幼馴染を自ら探しに国中を回るなんてこと、していないじゃない」

「あ……、えっと……。それは……。だって、探す手がかりもないし……」


フランチェスカ嬢の、ボクを蔑む目。


「まともに探しもしてないでしょ。幼馴染がいなくなっちゃったんだー、ボクちゃん悲しー、ボクってかわいそうでしょー、待ってるボクって健気でしょーって、周囲にアピールしているだけ」

「そ、そんな……」

「だからね、アンタは甘ちゃん。甘やかされた馬鹿男よね。でも嫡男だから、アンタのお父様とお母様は、その甘ちゃんが甘ちゃんでいられるようにって、アンタを支えるためのご令嬢を探して、アンタの嫁にしようとしているの。親が過保護でよかったわね、天使ちゃん! ご両親からかわいーかわいーってされて、愛玩されて‼」


お父様とお母様は……ボクを愛してくれているだけだよ。過保護なんかじゃあ……、

ましてや愛玩なんかじゃ……ない、と、言えなかった……。


「アンタがお花畑でにこにこしているだけの天使でいられるように、選ばれたのがマーシャ嬢であり、このあたしであるのよ」

「選ばれた……」

「そ。サディア嬢は賢い点ではアンタのご両親のお眼鏡にかなった。だけど、顔がフツーだった……よりも、サディア嬢のお母上が気持ち悪いから選択肢から外されたのかもだけど」


気持ち悪い……。確かにボクも、どこか気持ち悪さを感じたけど。


「ついでに言うとね、マーシャ嬢もその程度のことは調べさせているわよ。それでもお見合いに臨んでくれたのは、アンタの顔が一見の価値があるからね。観賞用としては最上よねぇ、アンタの顔は。でも、顔のプラスを覆すほどのお花畑でスカスカな中身。付き合っていられないわーって、ご令嬢たちの集まりで笑ってたわよ」

「え?」

「『君を愛することはない』ですって! 馬鹿らしいわねー、何様のつもりー? 天使様でしょ。あはは、うふふ、おほほってね!」


フランチェスカ嬢は使用人に用意された紅茶を優雅に飲んだ。


「だいたいねぇ、サディア嬢の居場所なんて、ちょっと調べさせればすぐわかるのに」

「え?」


何を……言った? 今、このご令嬢は。


「王都にいるわよ、彼女。今はね」

「えぇ⁉」


なんでそんなこと知ってるんだ?


「見ず知らず、無関係のこのあたしが、ちょっと調べさせただけで居場所くらいすぐわかったわよ。だから言うの、アンタは気持ちよく自分の不幸をアピールしているだけだって! あー、馬鹿々々しい!」


扇をとりだして、わざとらしく仰ぐ。でも、そんなこと気にしている場合じゃない。


「ちょっと調べればわかるって……、なんで?」


ボクを蔑んでいる瞳の、その温度が更に下がった。


「見合いするんだから、相手であるアンタのこと、その周辺くらい、調べるわよ。常識でしょう?」

「調べて……、分かったの?」

「当然。専門家に頼めばすぐよ」


専門家なんて……、いるの?


「サディア嬢は、どこかの侯爵家の馬車に乗って連れていかれた」

「そうだよ! だけど分かっているのはそれだけで……」


調べようがない。


「十分な手掛かりよ。侯爵家は十五家しかない。手紙でも書いて出せばいいじゃない。これこれこういう特徴のご令嬢が、そちらの馬車に乗ってそちらにお邪魔していませんかって。手紙、十五通で済む話。それすらアンタはしてないんでしょ」

「で、でも……、付き合いのない侯爵家に手紙なんて……」


失礼だろ?


「ほーら、結局その程度なのよ。そこまで調べる気はないのに、ボクちゃん、幼馴染がいなくなってさみしいんだーってポーズ。何が『君を愛する気はない』よ。幼馴染を待っているから、愛せない? 馬鹿でしょ? 幼馴染のサディアちゃんはアンタのことなんて覚えていないで、今、すんごい精力的に生きているわよ」

「え⁉」

「まあ、アンタの人生、アンタの好きにしなさいよ。うだうだうだうだ幼馴染のサディアちゃんを待っていまーすなんてポーズをして、同情を買って。まあ、そんな同情、買う人なんて、もういないけどね。マーシャ嬢みたいにアンタなんかに付き合ってられないって考えるのがほとんどでしょうね。人生は短いのよ?」

「フランチェスカ嬢は……」

「あたし? 当然、アンタみたいな甘ちゃんなんか愛する気はないわ。でも、断れない婚約だから、仕方がないわね。愛玩動物を飼うと思って、テキトウにアンタの衣食住は確保してあげるわよ。実権はあたしがいただくわ」


ふふん……と、不敵に笑うフランチェスカ嬢。ああ……、フランチェスカ嬢にしてみれば、ボクなんて、対等な婚約者なんかじゃないんだ。

愛玩動物。

ペット。

その程度……。





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― 新着の感想 ―
エリオットには悪いけど、痛快な言いたい放題ですね。  すべてをお膳立てされていたから自分から動く事を知らず、全肯定され慣れて反発心もうまく出せないって…… 御両親は息子を飼い慣らされたペットにしたかっ…
考えの足りない不憫な天使ちゃんだけど、フラチェスカ嬢に愛でられておわりじゃ嫌だー(涙) 手のひらの上でころころされるにしたって、もちょっとどうにかなりませんかね? 藍銅さま〜(懇願)
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