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忌み子と蔑まれた魔眼の少女は、人外貴族に買われて極上の溺愛を知る  作者: こむらさき


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第13章-3 雪降る故郷3

明日の朝も2話更新予定です。

おもしろかったり、続きが気になったらブクマや評価よろしくお願いします

 その言葉に、私は息を呑んだ。

 昔はあんなに私を気味悪がり、怒鳴り散らしていたのに。

 目の前で不自然に媚びへつらう両親の姿を見ていると、かつて私に向けられていた数々の酷い仕打ちが鮮明に蘇り、ひどい寒気が全身を駆け巡った。

 二人の声を聞くだけで、心の奥に押し込んでいた過去の恐怖が這い上がってきて、私はどうしようもない怯えにただ身を強張らせることしかできなかった。


「おや、ご恩恵、か。……君たちは私に娘を売ったはずだが?」


 ムコール様の声の温度が、すっと下がったのがわかった。


「ところで、この子には妹がいるそうだね。具合はどうなのかな?」


「は、はい……熱で伏せっていまして、家で寝ております……」


 お父さんがおずおずと答えると、ムコール様は感情の読めない声で淡々と頷いた。


「そうか。なら、帰りに薬を受け取っていくといい。領主には村の民に薬を配るように言っておいたから、君たちもそれを使えばいいだろう。……まさか、それ以上のことを私に望むつもりかい?」


 底冷えするような冷徹な声が、静かな広間に響き渡る。


 私のすぐそばに立つニクスも言葉を発することなく、鋭い眼光で二人を睨みつけていた。いつでも私を庇って飛び出せるように身構える彼からは、ピリピリとした張り詰めた緊張感が漂っている。


「い、いえっ! 滅相もございません!」


 圧倒的な威圧感を前に、二人は慌てて深々と頭を下げた。


 けれど、床に擦り付けられたお父さんたちの態度の裏に、まだ何か諦めきれない執着のようなものを感じて、私はさらに身体を強張らせてしまう。


 お父さんたちの私を見る目は、昔のような気味の悪いものを見る目とは違っていた。

 あの雨の夜、私を売り払ってムコール様から貰った金貨を眺めているのと同じ目で、私を見ている気がした。


 村を離れてから、私はムコール様やニクス、シルヴァン様たちの温かい視線に慣れてしまっていたのだろう。

 だからこそ、私を金貨と同じように見つめるその視線が、昔よりもずっと痛くて、辛かった。

 言われてもいないのに、昔投げつけられた『気持ち悪い老婆のような髪』という言葉が頭の中に蘇ってくる。

 ムコール様やニクスが向けてくれる温かいものとは違う、お父さんとお母さんのギラギラとした視線が肌を刺すように感じられて、私はギュッと目を瞑った。


 不意に、背中に大きくて頼もしい手が添えられた。

 振り向かなくてもわかる。

 ニクスだ。

 彼がすぐ後ろに立ってくれている。それに、私のことを明確に庇い、大きな背中で守るようにムコール様が前に立ってくれている。


 その事実と、背中越しに感じる力強い体温に支えられ、私はようやく細く息を吐くことができた。

 早くここから逃げ出したい。

 フローラの無事だけを確認できたら、もう、あの温かい森の屋敷に帰りたい。

 震えそうになる私を支えてくれる二人の存在だけが、今、ここに立ち続けるための頼もしい盾になっていた。


 そして、面会が終わり、両親が部屋を後にしようとした時のことだった。

 すれ違いざま、お母さんがスッと私に腕を伸ばし、耳元で小さな声を落とした。


「薄情な子だね。あんたからも、貴族様に私らへ何か恵むように言ってくれりゃあいいのに」


 それに同調するように、お父さんも忌々しげにボソリと呟く。


「一人だけいい思いをして……寝込んでいるフローラに悪いと思わなかったのか」


 二人からぶつけられたのは、チクリと胸を刺すような、粘りつくような嫌な声だった。

 いつもと同じ調子の言葉を、ムコール様やニクスがいる前で言われるとは思わなくて、思わず息を呑んだ私を、ニクスが素早く「何か言ったか?」と強い力で自分の背後へと引き寄せた。

 彼が鋭い眼光で両親を睨みつけると、お母さんたちはヒッと小さく悲鳴を上げた。


「……そろそろ『元』ご両親には、お引き取り願おうか」


 ムコール様の氷のように冷たい声が広間に響き、使用人たちが慌てて両親を半ば無理矢理、部屋の外へと追いやった。

 両親が去った後、少しの静寂が降りた。

 私は、窓の外を雪の中遠ざかっていく両親の背中を、複雑な思いで見つめていた。


 けれど、ふと視界の隅に違和感を覚えた。

 私の目に見える、生き物たちの光。両親の光が遠ざかっていく反対側、館の敷地の物陰に、小さな人間の光が一つ、震えるようにうずくまっていた。


「……あそこに、誰かいます」


 私が窓の外を指差すと、ムコール様が部屋の隅に控えていた使用人へ視線を向けた。


「敷地の物陰に誰かいるようだね。確認してきなさい」


「は、はいっ!」


 使用人が慌てて広間を出ていき、やがて玄関の扉が開く音が聞こえた。

 しばらくして、使用人に連れられて広間へと入ってきたのは、雪に塗れて寒さにガタガタと震える一人の少女だった。

 小さくて華奢な体に、両親譲りの柔らかい栗毛色の髪。

 妹の、フローラだ。


「お姉、ちゃん……?」


 館の中へ招き入れられたフローラは、暖炉の前に座らされても、まだガタガタと寒さに震えていた。

 時折、苦しそうに咳き込む姿を見て、私はたまらなくなって歩み寄る。


「どうして、こんなところに……熱で寝込んでいたんじゃなかったの?」


「お姉ちゃんが……村に帰ってきたって、お母さんたちが話してるのが聞こえて……」


 フローラは青白い顔で、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。


「どうしても、お姉ちゃんに会いたくて……寝ているふりをして、こっそり後をつけてきたの。でも、お母さんたち、すごく怒って出てきちゃったから……私、怖くて中に入れなくて……」


「外の雪の中で、ずっと待っていたの?」


 私が問いかけると、フローラは小さく頷き、私の服の裾をギュッと掴んで、幼い子供のように泣きじゃくった。


「ごめんなさい……っ、ごめんなさい……!」


「フローラ……」


「ずっと、お姉ちゃんのこと、庇えなくてごめんなさい……っ。私が悪いのに、お姉ちゃんが怒られてばっかりだったのに……お母さんたちが怖くて、何も言えなくて……ごめんなさいっ……!」


 フローラはしゃくりあげながら、必死に言葉を紡ぐ。


「あの夜、お母さんたちがあんなに気味悪がってたお姉ちゃんに、顔も隠した怖い貴族様が急に高いお金を出すなんて……絶対におかしいって思ったの。もしかしたら、何か恐ろしい儀式に使われて、殺されちゃうんじゃないかって……」


 そこまで言って、フローラはさらに強く私の服を握りしめた。


「私……お姉ちゃんを見殺しにしちゃったんだって……ずっと、ずーっと……っ!」


 私と違って、両親に似た髪色と目をした妹は、両親からとても愛されていたように見えた。

 けれど、その愛情の裏で、彼女は長年の後悔と、私を死なせてしまったかもしれないという罪悪感に苛まれ、一人で苦しんでいたのだった。

 すっかり痩せ細り、ひどく疲れ切った妹の姿に、たまらなく胸が痛んだ。

 そんなフローラに対し、ムコール様が静かに、温かい湯気の立つ小さな杯を差し出した。


「すっかり冷え切っているね。ご両親には後で薬を持たせる手はずになっているけれど……まずはこれを飲んで温まりなさい。私の、義理の娘の大切な妹だからね」

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