朔郎は有美子に会う5
「それは知らなかった。山から帰っても佐恵子はいつも通りに愛嬌を振りまいていたが……」
これは私しか解らないと思うけど、いえ、私にしか見せないと言った方がいいのかしら。思い詰めると精神に変調を来たすように急に泣き喚き、そのあとは何事もなかったかのように笑って誤魔化すの。どう云えばいいのかしら、ちょっとあの子は思春期がズレているのかしら?
「とにかくあの時の佐恵子は異常だったのよ。翌日には『あたしそんなこと言ったかしら』って顔して、何も無かったようにケロリとして、聞き出すのさえ馬鹿馬鹿しくなって。何でこんなんに付き合わされたのかと笑って仕舞った。とにかくそれから佐恵子はあなたを軽蔑していたわ」
思い過しだと思ったが、確かに少し変わった気がした。だが朔郎にはいつもの愛嬌を振りまく彼女からは、思い至る事は何も無かった。
「妙だなあ? なぜなんだろう?」
「自分の胸に聞けばいいでしょう」
「どう云う事だ! 二人ともちゃんと帰って来た。俺はあの時に正幸とちゃんと話しを付けたと云うのに」
「本当に山では何も起こらなかったの?」
有美子は不思議そうに朔郎を見た。
「だからそれを確かめようとさっきは別れた理由を訊いたのよ。あたしの推測は当たらなかったのね」
「推測? 何だそれは?」
「本当に何もなかったのね」
念を押すように有美子は見詰めた。
「う~ん」と言葉を濁した。それで何かを朔郎は隠してると有美子は察して追求した。朔郎は長い沈黙の後に「もう時効だなあ」と言って喋り出した。




