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陰り逝く日々  作者: 和之
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朔郎は有美子に会う4

  始めのうちは穏やかに語っていた有美子が、途中から口調に感情がこもり出した。佐恵子との最初の危機に弁護してくれた有美子の姿と重なって来た。あの時は佐恵子の節操のなさに呆れていたが、今回は母親としての自覚症状が余りにも乏しいからだ。このふたつの共通点は愛情の欠如のひと言に尽きる。

「そもそもなんで北村さんは佐恵子と別れたの?」

 コーヒーカップに付いた口紅を軽く拭く手付きがまるで茶道の手付きを連想させた。と同時に急にまた聴いて来るなんてこの女は何を考えてるんだ。確かに学生時代には「お似合いのカップルね」と言って応援してくれたし、もめると仲も取り持ってくれた。あの仲裁した日の佐恵子への疑問は、彼女の中に今も残っているのだろうか。

「俺には今も判らない、本当に判らないんだ……」

 有美子が何かを思い出したように笑いかけた。

「君は何かを知っているのか」

「このお店ね、以前はあなたの例の月明かりの穂高の写真を飾っていたのよ」

 あれは中止した最初の個展の折に、佐恵子が持ち込んだ物だった。大きく引き伸ばした写真はマスターの要望だったのか、佐恵子の希望だったのかは今は定かでない。朔郎は奥でカップを洗うマスターをチラッと覗き見したが何も窺いしれない。

「あなたが正幸と二人で最後の北アルプスへ行ったでしょう」

 不意に有美子が切りだして来た。

「あの時は笑って送り出したけれど佐恵子はすぐにあたしのところに来たのよ」

 二人を見送った後で佐恵子は、思い詰めたような顔をして有美子の部屋に駆け込んで、あたしの前で二人は自殺をしに行ったと泣き出した。「そんな素振りがないのにいったいどうしたの」とあたしはとりあえずは落ち着かせてその根拠を問い質した。トコトン問い詰めると「あたしが元で二人の長年の友情を壊して仕舞ったのよ」と急にわめき出す始末よ。もう凄かったのよ『あの二人は山へ果し合いに行ったって』泣きわめくから「じゃあなぜ止めなかったの」って言うと『そんな資格はあたしには無いわ』って言ってもう話にならなかったのよ。今思うとあの時の佐恵子は、どうしょうもない自分に取り憑かれて、頭が何か別のモードに切り替わったかのように完全に異次元の人だった。


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