朔郎は有美子に会う1
朔郎は病院を出て二時間も歩き回ってやっと有美子に電話した。十四年振りの声に、佐恵子から聞かされたのか彼女は驚かなかった。
朔郎は彼女の指定した喫茶店「篝火」は、初老のマスターが独りでやってるこぢんまりした喫茶店だった。八坪の長めの店内に、長いカウター席と小さなテーブル席が三つ並んでいた。
朔郎はカウンター席の端っこに座った。注文したコーヒーが出来る頃に有美子はやって来た。二人も子供がいる割には学生時代とそう変わらなかった。
来店した有美子は入るなり、初老のマスターとは親しげに挨拶して朔郎の隣に座った。
「昔と変わらないのね」
「有美子さんも変わってないようだねぇ」
隣に座った彼女を間近に観ると、やはり目立たない程度に生活の跡が見えた。やはり長い歳月が顔に現れている。
一緒に暮らしていた朔郎との話を、佐恵子からよくこの店で有美子は聞かされた。中でも一番に印象に残っているのは、やはり漁船に乗っていた話だった。そこで有美子は朔郎との話題を一応そこから入った。
「佐恵子が昔に見せてくれたあの絵葉書はアンカレッジなの?」
最初の補給で寄った時に佐恵子に出した絵葉書を思い出した。
「いや、あれはアラスカ半島の先にある島で、ウナラスカ島のダッチハーバーで、まあその辺りからアリューシャン列島は始まっているんだ」
「アリューシャンって凄いところね家の人が感心していたわ」
「確かに寒いが、寒流が行き着く千島列島の方が流氷が来て厳しいかも知れないね。それより旦那さんは元気?」
そうか、亭主を出したから振って来たか。まずい、このままほっとくと話が逸れて、何処まで脱線するか判らない人だった。早目に話を戻さないと、そう思って有美子はコーヒーをひと飲みすると目許を緩めた。




