永平寺に行く5
「どうしてここへ ?」
「探したのよ 、もう大変だったのよ。やっと狭山さんから聞いたのよ」
微笑む彼女の顔からは大変さが伝わって来なかった。代わりに細やかな彼女らしい気遣いだけは伝わった。
「狭山に会ったのか?」
佐恵子は返事代わりに首を横に振って「電話したの」と言った。おやっと? 朔郎はいつになく控えめな彼女に違和感が生じた。
「向こうは突然で驚いただろう」
「ええ、まあね」
佐恵子は意味ありげな笑みを浮かべた。その微笑みは先ほどの控えめな表情からすれば際立った。朔郎は佐恵子が何かとんでもない事を言い出しそうな予感がした。
「かおりが大変なの」
予感的中。
「君がここまで来るほど大変なのか?」
初めての座禅で参籠した印象も、佐恵子の言う実の娘だと云う印象も、まだこの男には気薄だった。
「どうしてもあなたが必要なのよ」
「……(正幸はどうした?)」
あいつ以上に、今は俺が必要だと知って優越感が湧いた。
「いやに落ち着いてるのね」
急に無愛想になった佐恵子の顔が、いやに皮肉っぽく聞こえた。
「座禅のせいかなあー」
間延びした言い方に彼女は苛立った。
「それでどう大変なんだ」
慌てて朔郎は真面目に言い直した。
「あなた、かおりの父親でしょう……」
そこまで言い掛けて佐恵子は留めた。
「ひと言余分だったわね」
「いや、君の言ってる事は正しい、正論だ」
「さっきも言ったけど、落ち着いてる場合じゃないのよ」
佐恵子の顔が少し厳しくなった。二人は通用門を抜けて参道に達した。




