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陰り逝く日々  作者: 和之
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友人の狭山1

 地下を走っていた電車は膨張して抱え切れないほどの様々な人間を抱え込んで郊外から地上に飛び出した。 

 それまで電車の揺れに任していた綾子は明るくなった窓の外に目をやった。閉ざされた空間が急に無限の彼方まで延びるとふーと気持ちが落ち着いた。

 あの人はどうしてああなんだろう。同期入社で一番親しかった狭山さやまさんからは、離婚してから精彩を失ったようだと聴いた。どんな相手だったんだろう。

「そうだなあ活発なお嬢さんって云う感じかなあ。二人は外見は正反対だけど内面は似ていた。性格は違うが性質は同じってところかなあ」

 狭山さんは北村さんの奥さんをそのように言っていた。性格は違っていて、性質は同じってどう言う意味なのかしら。

 綾子は無限に続くあの人の心の闇に眼を凝らした。

 職安がハローワークと云う横文字に代わっているのにもあの人は馴染めない。確かに十七年の重苦しい雰囲気に比べればモダンになっている。それでもあの人は馴染めなかった。


 朔郎が辞めた会社は妻になった 佐恵子が見つけて来た。住む場所も働く所も彼女が探し出した。それだけ佐恵子は結婚に焦っていたのだろうか? だが言い換えれば彼は佐恵子に振り回された格好になった。挙げ句が彼の前を去った。彼にとって彼女の存在は一体何だったのだろう。

 この歳になれば希望の職種に付けない不満は募るばかりだ。それなら自分で独立してやる手もあったが、得意先との個人的な繋がりを付けて来なかったことが悔やまれた。

 朔郎さくろうはハローワークを出てから御堂筋を淀屋橋まで歩いて来てしまった。京阪電車の乗り場が目に入った。

 今すぐこれに乗れば佐恵子の居る京都へ行ける。先ほどの彼女を見れば行ってどうなると云うのか、軽蔑の目で見られるだけだ。いや、知り合ったあの頃の佐恵子なら親身に相談に乗ってくれるかも知れない。

 朔郎の足は駅に向かった。料金表を眺めていると突然聞こえた北村と云う声に振り向いた。

「どうしてるんだ」

 呼び止めたのは狭山だった。狭山はデザインの原稿を届けての帰りだ。会社の近くだから誰かに会うかも知れないと思っていたがそれが狭山で安堵した。

 狭山は腕時計に目をやってから喫茶店に誘った。滅入っていただけにここでの狭山は菩薩に見えた。狭山が導いた喫茶店は、落ち着いた内装の店だけに、余計に彼のありがたみが今日ほど身に沁みた。


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