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陰り逝く日々  作者: 和之
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佐恵子クライマーの真髄を聞く2

「稜線は登山道じゃないんです。人ひとりがやっと通れる狭く連なった岩場ですよ」

「じゃあ、踏み外したら落ちるんですか」

「冬場ね、吹きだまりに雪庇せっぴと言って雪が張り出してるんですが夏や新雪、残雪の頃は大丈夫ですよ」

冬は一回だけ二人で行った。その時は落ちかけた北村を正幸が救った。

「まさか篠原さん、失礼ですがその歳で北アルプスへ行くつもりじゃないでしょうね」

「失礼ね、まだ三十後半よ」

 ちょっとサバを読んだかと微笑みで誤魔化した。

「主人が昔の学生時代にちょっとだけ登山のはしりのように穂高に登ったから」

「穂高ですか」

 二宮は一度だけチラッと見たご主人の姿を想い出した。が同じ大学時代の友人と登ったと聴いて納得した。まず宿泊用のとテントと食料は、最低二人で分散して登るから北アルプス縦走は単独登山ではきつすぎると付け加えた。

「じゃあ息の合った者同士でないと難しいんじゃないの」

「息が合うだけじゃ登山はダメですね。外見上は息が合っていても登り始めるとボロがでてしまいます」

「どういうこと?」

「早い話が山登りはきついです。その見返りは景色だけなんです。貪欲な人間でも無欲の人にもあれだけの激しい体力の消耗、時には命がけの行動に対して何の見返りもないんです。正に無欲の極地です。そんな所でも二人の性格が静と動のように、全くの正反対でも山では実に協調性の有る人もいますからね」

 登山と云う目的に限定すれば、正幸と朔郎には当てはまりそうだ。

「最近ですが、登山仲間から見せて貰ったある案内状に写る穂高の写真に釣られてその写真展に行って来ましたよ」

 聴いた佐恵子は思わず身を乗り出し掛けた。

「月明かりの穂高の写真ですか」

「なーんだ、篠原さんも見に行ったんですか」

二宮は好みが合った事に破顔一笑した。

「しかし、あれはどっちも当てはまらないなあ」

 山を情熱的に語る二宮が次に冷めた一瞬だった。

「どういうことですか?」

「あれは多分、単独登山で行った時の写真でしょうね」

 あの辺りは狭い稜線で山小屋どころがテントを張る空き地も、まして横になれるスペースもない場所だ。そんな危険な所で山男は誰も好んで野宿をしない。寝袋に入って狭い岩場に身を寄せるしかなく、おそらく前後には急斜面が迫っていて、僅かな月明かりの中でそれを確認出来る程度だ。ああいう行動とる人は異色の登山家で、どっちにも当てはまらない。一枚の写真の為だけに挑む登山家は異質だと二宮は言い切った。


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