朔郎と正幸の再会1
朔郎の写真展は今日が最終日だ。午後三時に狭山と綾子が閉店の手伝いに来てくれてその後に居酒屋で打ち上げをやる予定だ。
写真展は活況とは行かず、それでも多くの年配者が訪れ、作品作りを続けるように声援を送ってくれた。思慮深い人は昔の写真に目を留めてくれるが、そうでない人は一瞥するだけでサッサと通り過ぎてしまう。満月に近付く上弦の月と違って新月に近付く下弦の月はやはり物寂しく映るのかも知れない。が不夜城の世界に生きる人々にすれば月の満ち欠けに思慮する人は希だった。
「やはりああ云う作品は今の人には受け入れて貰えないのか。全くスポンサーも付かなかったか」
ため息交じりに下弦に冴える穂高を見ていた。
「中々いい作品だなあ」
振り返ればそこに立っていたのは十数年ぶりに見る正幸だった。あの山登り以来会っていないせいか、大学時代より一皮も二皮も剥けていた。昔の面影は僅かに下がった彼の目尻だけだった。これがあっちこっち飛び回っている商社マンの姿なのか?
「随分と昔の写真だ !」
今は彼と同居する佐恵子の顔が浮かぶと、朔郎は咄嗟に剣呑な言い回しになった。敵意さえ見せる男に、正幸が見せた苦笑いには、辛さと哀しみが同居していた。
「それにしては斬新だなあ」
「そう思ってくれるか、有り難いね」
取って付けたような正幸の言葉をそのまま言い返した。
十数年の氷雪がそう簡単には溶けないと正幸は人気の絶えた店内を見回した。
「もう店じまいか」
「それを見計らって来たんじゃないのか」
図星と云わんばかりに正幸は目尻を緩めて、人差し指で照れるように鼻をすすった。そこが昔のままだった。朔郎もやっと苦笑いをした。




