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陰り逝く日々  作者: 和之
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綾子と裕子は佐恵子に会う3

「聞けないわよね。それっきり貴方はあの部屋を飛び出して行ったのですから、でも北村さんはあなたを信じて待っていたのよ十何年も……。信じる信じないわあなたの勝手ですけれど(ええ身勝手な人ですよあなたは)。そして最近、本当につい最近ですよ。穂高で危険な目に遭わされたとやっと重い口を開けてくれたのよ、実に呆れるぐらい律儀な人を今まであなたは袖にしてたのよ。狭山さんもこの話を聞いて真実だと確信したそうですよ」

 今まで本当の恋をしてない人に何が解るのよ。当時の朔郎さくろうとは心の全てをさらけ出して接した人なのよ。でもあの人はさらけ出した心の傷を私に残したまま旅に出た。そこまで追い詰めたのは私かも知れないけれど……。それでもあの人はそう云う女心を全く理解してくれなかった。そんな朔郎になり振り構わず前向きに打ち込む用に仕向けたのはこの私だけど。前を向いていてほしい、でも振り向いてもほしい。丁度花びらを一枚づつちぎってゆく花占いのように揺れる二択の心境が佐恵子の云う朔郎への偽わざる本当の愛だった。

 この時に鳴り響いた電話にも佐恵子は表情ひとつ変えずにいた。綾子の後日談ではその顔はまるで終末を演じる能面の様だったと言っていた。

 マスターが取った電話は、かおりちゃんからの来客の呼び出しの報せだった。

佐恵子は目許だけ緩めて勘定はマスターには済ませていますと慇懃に席を外した。

 何なのこの人と二人は思ったが仕事ならとその場で見送った。

「もう一度あの店に寄る?」

 あの娘に聞かれたくないから、あの女はわざと店から誘い出したのよ。でももう十分に言ってやったからと綾子はかぶりを振った。  

 二人は河原町から特急電車で帰った。大阪で裕子と別れた綾子は、ワンルームマンション近くの塀で、いつもの猫ちゃんを見つけるとたわむれてから部屋に帰り着いた。 


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