綾子と裕子は京都へ3
「夜の山岳写真は全く撮ってないみたい。日中のちょっと変わったアングルから撮った写真ばかりになったの」
「冴える月下の写真はもうないのね、なんか一本神経が抜かれた見たいね」
綾子が可怪しな顔をした。
「神経って何本もあるの?」
神経は数でなく種類だと。その中のデリケートな神経を守る人が居なくなった。そこから、夜にこういう場所に立つくそ度胸の神経も無くなったと裕子は言い直した。流石に受付嬢として男どもの神経を見抜いてきただけはあった。
「そうか佐恵子さんって云う人はそういう人だったのか」
「綾子は可怪しな所で納得するのね」
綾子が納得したのは彼女の存在でなく北村のナイーブな精神であった。それがあの作品を作り出していたのだ。源泉がなんで有れ、あれだけの作品を作り出せる能力を彼は秘めているんだ。問題は将来的に彼がいかにそれを開化させるかに掛かっていた。
展示会場を訪ねて来た佐恵子を見て、綾子はそれで現実味を帯びて、彼にまた惹き付けられた。
「綾子、それほどあの人に新たな作品に挑んでほしいってゆうわけ?」
「そう、あの下弦に冴える月に代わる作品を」
「穂高じゃなかった?」
問題はそこじゃないと惚けた裕子を睨め付けた。
あの作品は、あの女が居てコソの写真なのよ。とにかくあの女の存在価値を北村に高めて貰うのよ。
「あの二人に寄りを戻して貰うの?」
「馬鹿ね、あたしがそんな事を思うわけないでしょう」
寄りを戻すのでなく、遠くで気持ちだけ協力して貰うだけよ、ときっぱり綾子は言い切った。その人の作品の源泉が「智恵子抄」のように奥さんにあるのは稀で、多くの人は心の中に置いている。全ての作品が想像の世界から創り出すものならそれで納得できる。
要するにシャッターを切る時だけ精神を思い起こして貰う借り物でいいのだ。それで新たな作品が出来ればあの女は要らないし、これに勝る物はない。




