就活1
九月に入っても今年の夏は暑かった。失業で冷房を節約していたので余計に暑い。開け放たれた窓からは一向に風が吹いて来なかった。
ダイニングテーブルに両肘をついて、気怠さの中で朔郎は先ほどから隅の電話とにらめっこしていた。彼は意を決して受話器を取って電話した。
「求人情報誌を見て電話したのですが……」
「ああそうではすか失礼ですがお幾つですか?」
「三十七です」
歯切れ良い電話の声に朔郎は安堵して歳を言った。
「ああそうですか」
電話の相手は歳を聞いて急に声をトーンダウンした。彼は急に不安になった。
「年齢はそこに書いてあるとおりうちは若い人しか採らないんですよ」
「若いと言うと幾つまでですか?」
何度かの問い合わせの後にささやかな抵抗を試みた。
「良いところ三十までですね」
「三十代ですけど……」
「とにかく貴方の年齢ではダメです」
ちょっと間を空けてから相手は呆れたように答えた。
「そうですか……」
朔郎は力なく受話器を置いて求人情報誌を丸めて部屋の隅のゴミ箱に投げ入れた。
朔郎は十七年勤めた会社を二ヶ月前に辞めた。彼に落ち度はなかった。ただ会社の経営方針に落ち度があった。彼は意にそぐわぬ転勤を断った。その結果会社を辞めざるを得なかった。
「なかなか再就職はやはり難しいか」
深いため息を付いて奥の和室に戻って寝転んだ。
彼の脳裏には二ヶ月前の送別会が浮かんだ。
よくぞ会社の方針に意を唱えた。厭だと思ってもなかなか決断できないのに良く言った。四十手前で歳を考えろ、折り返し点だ今までの苦労が台無しになるぞ。色々言ってくれたがみんな本当に惜しんでいたのか。半ばやけくそなのか、それでも心地良くひとり酔い潰れた。見かねた綾子がアパートまで送ってくれたのが印象に残った。




