個展の開催2
十月に入ると街路樹の剪定作業が一部で始まった。木枯らしも吹かぬのに葉を落とした木を見るのも奇妙なものだ。まして今日みたいに暑い日は尚更で視覚は冬でも、肌に感じるのは夏に近く実感が伴わなかった。朔郎の個展もあの頃なら人生の浮沈を賭ける意気込みもあったが、剪定を終えた木々同様に虚しさが漂った。それでも妹をたき付けてまで佐恵子が来るのは正幸に対する不信感だった。
佐恵子はギャラリーの前で、表からガラス越しに中を見た。客は疎らだった。懐かしさが心の整理を妨げていた。常人への面影は薄く、会わぬ人への思いは熱く募る。
「ここなのお姉ちゃんが云っていたところは?」
友美には姉があれほどまでに行きたがったギャラリーを前にして立ち止まる理由が判らず苛立った。
「ねぇ、入るの、入らないの、どっちなのよ!」
立ち尽くす二人の傍を中年の男が好意の目で眺められると友美は更に急かした。
佐恵子は妹の声に背中を押されて入った。
ギャラリーの中は強い陽射しに慣れた眼には暗く映った。十畳ほどの部屋がふたつあった。部屋の中央に仮設のパネルで仕切られ、そこにも写真が飾られて周囲を気にせずに部屋を一回り出来る様になっていた。
入り口には狭山と別に女性が一人いた。佐恵子は懐かしさの余り立ち止まったがすぐに妹を紹介した。
真っ先に狭山は佐恵子に歩み寄って来て、急用が出来て北村は暫く来ないので留守番を頼まれていると伝えた。
がっかりするかと思いきや彼女は胸をなで下ろした。それを見て狭山は奇妙な感覚に囚われた。
「北村の送別会の日に会ったそうですね」
やっぱり聴いていたのか。
「ええ会いに行きました」
「何故」
「理由が要りますか。それよりあたしあの人の作品を見に来たのですけれど……」
狭山はやっと表情を崩した。
「いや、あっ、そうでしたねえ。じゃあゆっくりとご覧下さい」
と狭山は受付に戻って北村の替わりに来ていた堀川に佐恵子を紹介した。
堀川は冷めた眼で北村にとって過去の女である佐恵子を暫く観察した。
佐恵子も堀川を一瞥して、姉妹はゆっくりと見学を始めた。




