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陰り逝く日々  作者: 和之
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佐恵子と有美子6

「上手く行ってるの正幸さんとは、まあ何十年振りに北村さんに会いに行ったのだから余程の事だと想うけど」

 佐恵子は仲がほころびかけてもボロボロになるまで最後の一線で繕う方だ。それでも愛欲を紙一重で生きてる彼女は一線を越えると冷静に完膚なきまでに突き放す。

「別に表立ってどうって事はないけど」

 佐恵子のこの辺りの神経が有美子には理解出来ない。

「じゃ心の裏に何があるの」

 朔郎に会ったのはまさに正幸に対して自分の心の裏側を覗いてみたい衝動に駆られた。当日は何もなかったようだ。一週間後に現れた時はさすがにときめいた。あの人は想い出の品を返すとサッサと帰った。

「それで佐恵子はどっち付かずか解らないからまた会いに行くつもりでしょう。でもそれ以上はケガの元」

 と有美子は結論を付け加えた。

 今の状態を的確に言い当てて、しかもやんわりと忠告してくれるのが彼女らしい。

「どっち付かずなんて。二人は旧友なんだから、有美子は大袈裟過ぎる。そうじゃないの……」

 佐恵子の否定はうわべだけだ。それが余計に深刻さを露見して、有美子は益々捨て置けないと彼女の現状維持に努めた。

「じゃあどうなの。旧友なんてあの二人には当てはまらないから、少々の事なら我慢するのよ。かおりちゃんもいるでしょう」

 正幸の性格を的確に知る有美子の言葉らしい。要するに恋人でなく主婦の立場からの物言いで保守的だった。しかし立場が逆になると佐恵子も同じ事を云ったかも知れない。今の現状は車のハンドルの遊びの部分で、実際に心が動くにはまだ隙間がある。かおりちゃんを出す事で心の揺れが少しちぢまり余裕が出来た。しかし激情型の佐恵子にはぶり返す怖れが十分にあった。

 徐々に伸びた陽射しが心に染みると益々感傷的になり、正幸とは相変わらず心の中に踏み込む言葉を探す日々が続いた。有美子は此の問題で会う都度はっきり言う様になった。

 研ぎ澄まされた言葉に葛藤して、正幸の弁明と有美子の意見との間を揺れ動き、見えない想い出と云う磁力には引き寄せられた。


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