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陰り逝く日々  作者: 和之
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佐恵子と有美子2

「同じ写真を伸ばしたのを昔、画廊のオーナーから譲り受けましてね、またその人が今度は個展を開きそうで、前宣伝を兼ねて飾って欲しいと云われました」

 あの人が今度は自力で個展をやるらしい。

 マスターは早速奥から額に入った写真を取りだして店内に飾った。

 それは容易に人を寄せ付けぬ孤高の山の夕暮れの一コマだった。

 いつ頃の写真かしら、雪が僅かに残っているから初夏かしら。個展は作品を選ぶ前に立ち消えた。だからきっと大学時代の写真なんだわ。それにしてもこの写真を撮った後は暗がりの中をどうして山から降りたのかしら。言葉さえ吸い込まれて何もない、誰もいないここで一晩夜を明かしたのかしら。後先を考えずにただこの瞬間を待って撮るなんてあたしにすれば狂気に近い。そこまで駆り立てた此の写真はいったいなんなの。

「ねえ、マスター、この写真どう思います」

 美しさより自然の畏怖を感じさせる。誰もそう思うのかしら?

「悲しいまでに洗練された風景ですよ。だから大事に残したいです。でも画廊のオーナーは私は観ていないのですが、どうもこの後に撮った下弦の月に照らされた山の写真に興味が移ったようですね。それでオーナーに気兼ねして私は店でなく部屋に置いたのですが、でも今一度こうして店に飾ると悪くない写真ですよ、これも」

 そこには写真に対する冷ややかさや親しみよりも、ある種の距離を置いた夢を温める瞳がかすかに漂っていた。マスターは人生の峠を越えたほのかな笑いを見せた。

「此の人は今もお元気ですか」

 聴かれて佐恵子は今もあの人は写真を撮っているのかしらと自分に問うた。

「元気かしら? でも若くないからもうこんな写真は撮れないわね。あたしと同じ歳なの」

「それでも私の半分近い歳じゃないですか。友人にはまだ穂高へ登る人もいますよ」

 半分は大げさだがそう云ってマスターは笑った。


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