回想13
こうして要領を得ない朔郎の行きつ戻りつしながら、正幸との今までの交友関係を長々と説明する間に、佐恵子もやっと自分を取り戻してくれた。それと共に正幸の友情も佐恵子に対しての実家への弁明も代え難いものだった。
事件のあと佐恵子は心機一転して出直した。資金面と成功の見込みが掴めない今は、実家の父を納得させるだけの個展は当分見送った。これ以上は頼るわけにはいかない正幸から離れて、大阪に引っ越して朔郎にも定職に就いてもらった。近くに居れば頼まなくても正幸は私の為なら一肌脱いでくれるが、それでは朔郎にまたイヤな思いをさせてしまう。
その内に子供が生まれた。次は生活の安定だった。この事態に朔郎も不承ながらも佐恵子の探した正社員の職に付いた。
新たな会社で朔郎は同期入社の狭山と云う男と知り合う。
狭山は正幸の様に自然派じゃないから交通の不便な所には行かない。まして三、四日も掛けて北アルプスを縦走する山男の真意なんて理解出来なかった。だがとことん面倒見が良かった。しかも正幸の様に見て見ぬ振りするところがなく表裏一体の男である。更に正幸の様に言うべき事は濁さず、爽やかに忠告してくれた。
佐恵子も好感を持って狭山の彼女とも仲良くなり、すぐに家族ぐるみで付き合い出した。
だがその辺りから、佐恵子の様子が変わっていると狭山の妻に指摘された。単調な生活を送る多恵の「父親としての認識が足らないのいしら」と云う勘らしいが、元々変わっている佐恵子自身はそんな平凡な女じゃない。まして気前が良く活動的な彼女の微妙な変化など朔郎に読み取れる訳もなかった。
そんな時期に正幸が学生から社会人へ踏み出して、仕事も順調になると勝手な登山も叶わなくなり、これで最後の登山になる意味も込めて信州の登山に誘われた。二人が最後の信州の登山から帰って一週間後に佐恵子は忽然と消えて、十四年振りにまた突然として現れた女である。




