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陰り逝く日々  作者: 和之
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個展の復活1

 朔郎さくろうは早めにアパートを出て梅田周辺をあてもなく歩いた。この辺りは相変わらず人の往来が多い。通勤の時はそうは思わなかった。こうして当てもなく歩くとみんな機械の様にもの凄いスピードで歩いていた。動く歩道でもエスカレーターでも止まると云う事を知らない連中だ無理もない。会社を辞めて二ヶ月で彼はもう此の流れに付いて行けなくなっていた。

 朔郎は地下鉄で心斎橋へゆき、綾子との待ち合わせ場所である地下街のセルフサービスの喫茶店に入った。注文したコーヒーを持って席を探していると居合わせた狭山さやまに声を掛けられた。

「何だ、最近よく会うな」

 狭山は笑いながら席を空けた。朔郎は時計を見て、やばいと思いながらも席に着いた。

「多恵がお前の事を心配してるんだ」

 ウ~ンとうわの空で生返事をした。

 要するに狭山の心配は失業保険や退職金で食い潰すより生活の安定だと言ってる。それで一年、二年して引き篭もるパターンになる事を狭山は恐れていた。

「佐恵子さんのことよりまず仕事の事だ、次はかおりちゃんの事とじゃないのか、此の先大変じゃないのか」

 そうか。狭山に言われて気が付いた。俺には娘が居たんだ。なぜこの前に京都へ行った時に娘を捜して名乗らなかったんだ。あのブティックのどこかに居たかも知れない。いやあれでいいんだ。俺も娘もこれ以上重い鎖を曳きずる必要はないんだ。

「まあ、お前には親の資格はないが、それでも親には違いない。そう思えばどんな仕事でも出来ると思うが」

「親か……」  

 視線を暫く宙に視線を漂わせて、もうすぐここに綾子が来ると言った。

以前からあのは朔郎に愛嬌を振る舞いていた。朔郎はためらいと迷いの優柔不断の中で綾子を見ているだけで歳月を送った。

 やはり心の片隅にはまだ佐恵子が無意識の中に残っていたのだろう。佐恵子の生活がはっきり解り、入り込める余地が無い今は一気に彼女への心のつかえが取れた。それから彼は二ヶ月前の送別会からやけに綾子に急接近していた。

「そうか。しかしそれとかおりちゃんは別だ。この縁は死ぬまで切れないぞ」

 狭山は「娘には曖昧な態度を取るな」と真剣な眼差しを北村に向けた。だがその眼はすぐに崩れた。狭山の視線の彼方に綾子がいた。


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