再会3
恋人時代からそうだった。悪意はないのは分かり切っていた。なんだか自分が尊敬に値しない人に取られて不愉快だった。今も朔郎は佐恵子のその瞳に押されぱなっしだ。彼はその瞳に向かって切り返した。
「正幸とは上手くいってるのか?」
「え、え」
彼女はちょっと言葉を詰まらせてから。
「上手くいってるわよ」
それがどうしたと 彼女は押し返した。
「正幸か……。あいつは卑怯だ!」
「貴方にそんな事を言う資格はないわよ」
「さあ、どうだろうねぇ」
「どう云う事なのよ」
「まあいい。あいつはあいつで苦しんでいるだろうなあ」
一瞬、彼女の顔がこわばった。
「まだそんなこと言ってるの。もう何しに来たのか分からなくなってくるでしょう。あなたがそんなに執念深い人とは思わなかったわ」
次に彼女は呆れたように作り笑いを浮かべた。佐恵子は表面では笑っていても瞳は動揺している。
「本当に何しに来たんだ」
余裕を見せようと朔郎も笑って見せた。その笑いに佐恵子の瞳が彼を突き放すように一瞬鋭くなった。
正幸を貶した言葉に彼女は怒りをこらえている。だとすればいったい何しにきたのだろう? 何に耐えているのだろう?
「正幸のことは心配しないで、ただあなたが心配だから来たのよ」
朔郎の疑問、不安を先取りするように佐恵子はなだめた。
「そうなのか? 急に俺のことが心配になったって……。でもそうだとすれば随分長いこと心配しないでいられたもんだなあ」
皮肉交じりに朔郎は佐恵子を揶揄した。気位の高い彼女は弁解しないで聞き流した。
「君は時々、自我が極端に強くなることがあったね」
「あら、そうかしら」
屹度した眼で彼女は否定した。
暮れなずむ陽射しが窓をかすめて、長く曳いた影を隅の暗さに溶け込ませた。
彼は時計を見た。
「今日は忙しいの?」
佐恵子は心配そうに覗き込んだ。
「俺の送別会があるんだ」
「あの会社を辞めるの」
「ああ、転勤がいやでね。ああ、でも時間がない。七時に梅田で有るんだ」
「梅田ならあたしもゆくから。梅田をぶらぶらしてそこから京都へ帰るの。送らせて」
「じゃ後は歩きながら話そう」
佐恵子は微笑みながら頷いた。




