再会2
長堀を少し過ぎて堺筋にある喫茶店に彼は入った。心斎橋の賑わいにすればここは場末のおもむきがあり、時間の観念から解放された客だけが紫煙をくぐらせていた。彼らはコーヒーを味わいながら時の流れの外に身を置いてる。
薄暗い仄かな灯りの中に、髪こそ少し短めだが昔の彼女の姿が浮かび上がっていた。彼は少しばかり心ときめかせてテーブルに座った。間近に観る彼女はやはり目尻や肌に十四年の歳月を映している。
気落ちしたがすべて昔のままなんて有り得ないと朔郎は言い聞かせた。それでも彼女は若く見えた。朔郎を見る佐恵子の瞳が反射的に微笑んだ。
「驚いたでしょう」
と言いながら輝かせた佐恵子の瞳が彼を戸惑わせた。すべての判断を狂わせ意味を失いかけた時、復活する望みのないまま脳裏の片隅に追いやった記憶が蘇った。浮かび上がる記憶があの時々に夢見た佐恵子の笑顔を浮かび上がらせた。
「朔郎さん……」
呼びかける佐恵子の瞳が変化した。朔郎が捉えた彼女の瞳の中に、長い空白の月日が埋まっていった。愛しさに満ちた瞳が、長年にわって凍り付いた彼の執念を溶かし始めた。朔郎の変化に反応するように、佐恵子が見せた屈託のない笑顔に、彼の不安は一瞬に霧散した。
「元気そうね。あれから結婚したの?」
「いいや」
彼は無表情で答えた。心の不安は消えても硬直した表情まで行き渡らなかった。
「でも女の人、いるんでしょう」
朔郎はやっと作り笑いを浮かべた。
「まだあのアパートに住んで居るのね、繋がらないかも知れないと思いながら電話したけれどすぐに貴方が出てホットして懐かしくなってきたの」
十四年振りに佐恵子に会って彼は慎重に言葉を選んでいた。なぜ電話したのか、なぜ会いたくなったのか詮索したが澄み切った彼女の瞳が断念させた。
「……、正幸は元気なのかい?」
「ええ」と佐恵子は急にトーンを下げた。が「かおりは元気よ」と再び元のトーンに戻した。
自分の娘の名を聞きいて朔郎は静かに頷いた。そして煙草を取り出して紫煙をたなびかせた。いつもよりほろ苦い味だった。
「まだ煙草吸ってるの。からだに悪いわよ」
「何いってんだ君が教えたんだ」
「あら、そうだったかしら」
彼女は笑って茶化した。
「それより電話では何も訊かなかったけど、あなたかおりの事は心配じゃないの」
「他にもあるが……、それより幾つになったんだろう?」
「もうすぐ十七で高校三年になるわ」
「じゃ次の春に卒業するのか」
躰の線は崩れていない。あれから子供は産んでいないのか? 正幸がそれで納得しているのだろうか? 此の疑問に今一度、佐恵子の瞳を見直した。
此のひとは何を考えているのだろうと云う目で見返された。




