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陰り逝く日々  作者: 和之
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回想10

 彼女のお父さんは頷いて神妙に聴いていた。逆に北村は俺に感謝してもらいたいぐらいだ。

 確かに佐恵子に問うと「ええ、立派な態度で父とも一歩も引かぬ交渉してくれました。良い友達ね」と言っていた。

 父も正幸の説明に感服した。けれど正規の仕事に就いていないことが致命傷で、これだけは正幸がどのように弁護してもどうしょうもなかった。しかも卒業も危ぶむ状況では父は正幸に「それがあんたなら話は別だ」とまで父に言わしめるほど恥ずかしくない人に正幸は見えた。あれほど弁護してくれた正幸をあなたがとやかく言えないと佐恵子は涙ぐみながら語った。

「大学は留年したそうだなあ、また一年棒に振るのか。佐恵子さんの身にもなってやれ」

「うるさい、熊本まで旅行したお前に説教される言われはない」

 正幸は二缶目の缶ビールに手を付けた。

「お前に黙って行った事は悪かった。反省しているが成り行きでそうなってしまったんだ」

「何が成り行きだ! 正幸! お前は信念が欠けているんだ」

 ーー確かに高校時代はお前はクラスで人気があった。学級委員にまで推薦された。だが正幸、俺はお前が女の子にはからっきしダメなのを知っていた。普段はそうでもないのに感情を意識した途端に上がってしまいしどろもどろになるのを。それが今までバレていないのは、その直前で俺がお前の感情をコントロールしてやったいた。お前がクラスで人気を保てたのはの俺の特技のお陰だった。

 正幸のような特定の人間は道徳的な感情の高まりを自制出来ない癖があった。一方の朔郎は情緒的には不安定で相手の言い分に負かされるが、越えてはならない相手の尊厳には向こうが越えない限り自制できた。時折、自分を訳もなく見失う正幸の心の中へ踏み込める朔郎には、いち早く彼の正体を見破って、常に一歩手前で朔郎に忠告されて正幸は踏みとどまれた。クラスに溶け込めない朔郎はいじめの対象になるが、正幸が防波堤としてクラスから一目置かれる存在にしてくれた。この取り引きは級友からは厚い友情として見られた。

「大学時代には友情の証しとして、女性に対するコンプレックスを克服してやろうと、佐恵子を紹介してスッカリ取り除いてやった。それなのに俺の留守に一緒に旅行するなんてお前は道徳心の無い奴だ!」

「だから成り行きだと云ってるだろう。本意じゃない」

「うるさい! すべて成り行く任せなら世の中は支離滅裂してしまう」

 無理押しすれば人情なんて在ったもんではないが、それを推し量れないのが人情でもある。

 大学時代はよく二人で北アルプスを縦走登山をした話を持ち出して、ついに正幸は人情が無理なら同情を買おうとした。






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