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陰り逝く日々  作者: 和之
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回想9

 電話で有美子の言ったとおりだった。片道でも九州は遠いのに、そんな所へなぜ正幸まさゆきと実家へ行ったか朔郎は激しく佐恵子を問い詰めた。その激しさに耐えきれず佐恵子は部屋を出て有美子の所へ行った。

 朔郎は身勝手な女だと黙って見送った。和室に寝転ぶと暫く仰向けになって天井を眺めていた。

 突然に朔郎は正幸に電話した。仕事が終わってから正幸は呼び出しに応じて朔郎のアパートへやって来た。

 このアパートは通りから込み入った所にあり、しかも二階へ上がる階段の手摺りは年季の掛かった色にさび付いていた。一番奥の部屋をノックしたが返事がないのでドアのノブに手を掛けると無錠で動いた。

「用心が悪いなあ」

 と周囲を見回しがら正幸は入って来た。

「佐恵子が戻って来るといけないと思って鍵は掛けてない」

「出掛けているのか」

 まあ座れッ、と入ってすぐ流し台の前にあるダイニングテーブルを勧めた。

「こんな狭い所に二人で住んでいるのか」

 ますます頭にくる奴だ。それでも正幸が座ると缶ビールとコップを置いた。

「大きなお世話だ! その内にでっかい家を建ててやるからなあその時にゃ驚くなあ」

 朔郎は一口ビールを飲んだ。つまみはお菓子の柿の種だけだった。彼女が留守だとこうなるかと正幸はコップにビールを注いだ。

「それは俺でなく佐恵子さんに言えよ、彼女泣いてたぜ」

 正幸も一口飲んだ。

「嘘つけ! お前が勝手に熊本まで行きやがってッ」

 黙って正幸は柿の種を数口掘り込んだ。

「その件で電話して呼び出したのだろう、高校時代からの仲じゃないか。まず順序だてて話そう」と正幸は落ち着いて言った。

 朔郎は友情もあったもんじゃないと柿の種を口に放り込んだ。

「どうして一緒に行った」

「どうして籍を入れない」

「余計なお世話だ!」

「だからお前は水臭い、俺が取り持ってやろうとしているのに。そこでお前の良さをイヤと言うほど俺は向こうの親に説明してやった」


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