回想8
十和田湖を眼下に眺めて周囲をめぐりそこから八甲田山、八幡平と硫黄の噴出する無人の山間から田沢湖に出て奥州を独りで縦走しながらシャッターを押し続けた。秋田から象潟へ行きそして山形に入り出羽三山・月山、羽黒山、湯殿山を撮影してそこでまた日本海まで戻った。かなりハードな強行軍だったがそこで朔郎は予定を早めに切り上げて帰って来た。連絡を受けて佐恵子は駅まで迎えに行った。
「どう良い写真は撮れたの? でも早かったわね」
「フィルムが無くなったから」
「向こうで買えばいいのに」
「山の上には売ってないよ」
都会まで出ればもう行く気がしなくなったらしい。
そうかそうかと佐恵子は笑って頷いていた。そのまま駅からタクシーで帰ったがどこか佐恵子の笑顔はいつもより歯切れが悪かった。
家に着いてから紅茶を用意した佐恵子はいつもより神妙に切り出して来た。
「実家へ帰ったんだけどひとりじゃないの」
彼の飲みさしの紅茶はその場でストップモーションして顔も膠着した。
「心配しなくていいのよ、知らない人じゃないのッ」
朔郎が急に厳しい表情を浮かべて、慌てて佐恵子は話を繋いだ。
「相手はあなたのお友達の正幸さんなんだけど」
朔郎の目が鋭くなった。佐恵子が初めて見る彼の表情に精一杯の笑顔で繕った。
「偶然に駅で出勤途中の正幸さんとばったり会ったの」
佐恵子は更に最大限の作り笑いをした。
「それで」
朔郎は陰険に催促した。佐恵子は慌てて「父にあなたの事を許してもらうように正幸さんが説得に行く」と言い張られてどうしょうもなかった。
「何を許してもらうんだ、俺はなにも悪いことをしていない」
「もちろんそうだけど。一緒になることを許してもらうのよ」
「それで」
同じ表情でまた催促した。
「最初は軽く聞いていたけれど。父の反対で入籍を済ませてないと言うと彼は『もう大人なのにそれは良くないボクがお父さんと談判してやる』と俄然と彼はすぐに会社へ休みを一報して付いて来ると言い出したのよ。それでも断ったのよ、でも最後は貴方のお友達でしょうと云う思いがよぎったの」
「それとこれとは別だ!」
次第に陰険な表情になりかけて更に慌てた。
「入社したばかりの会社に休みを取ってまで」
「許せん !」と強い口調で遮られた。




