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陰り逝く日々  作者: 和之
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回想7

「この街は不思議な街ね。とても千年の文化を受け継いでるなんて思えない、やる事すべてが新しいそれでいて千年前の文化も残っている」

 佐恵子にすれば来てみて実際に戸惑いもあった。

「まあね、お公家さんがずるいのよ、武家社会からの生き残るすべを身につけているのはこの街だけじゃないかしら。それより佐恵子は腹をくくったんだから、この個展は絶対成功させなけゃあダメよ」

 相談に乗ってくれた有美子に応えるべきと正幸を見合わせたのだが、正幸の真意を佐恵子は掴みきれなかった。

 有美子に賛同した佐恵子は個展の下調べを兼ねて久し振りに実家に帰る事にした。だがスーツ姿でビシーと決めた商社マンの正幸とこの日、偶然に駅で声を掛けられた。これが運命を変えた。

「北村の留守に何処へ行くの?」

 佐恵子はバリバリの社会人一年生になった正幸に見とれた。

「家に居ても仕方ないから実家へ帰ろうと思って」

 正幸はこの時、初めてふたりがまだ籍に入れていない理由も知った。それだけではなかった。北村とは長年の付き合いで、彼奴の力になりたいと同行を言い出した。両親に北村の良さを助言すると言われても、幾ら友達でも一緒には行かれない。佐恵子の来ないでと云う弱々しい言葉を振り切って正幸はとうとう熊本まで付いて来た。

 熊本駅を降りてふたりはタクシーに乗った。

「新入社員なのに本当に仕事は大丈夫なの?」

「だから会社とは電話で了解はとれてるから心配ないよ」

「まだ入社したばかりで日が浅いでしょう」

「だからすぐに取り返せるよ、それよりも唯一無二の友だ。ほっとけるか」

 朔郎の見送りの時と違って、調子の良いこと言っているけどスーツ姿の正幸は頼もしく見えた。

 事実、実家での父は実に正幸には愛想が良かった。前回は弁明を与えず朔郎を激しく罵った父が、正幸の説く朔郎の人となりに耳を傾けてくれた。これなら父も公正な目で作品を見られる。これは個展を前にしては良い収穫になった。

 正幸はその日の汽車でトンボ帰りだった。佐恵子は正幸を駅で見送ると引き返して実家に一泊して帰った。行きしなはあれほどしつこくまとい付いたのが嘘の様にあっさり正幸は京都へ帰った。

 気を良くして有美子に電話すると、佐恵子は渦中に居るから周りが見えていないと説教した。

「まず将を射んと欲すれば先ずその馬を射よ」と相手はまずは第一の関門を突破したつもりじゃないかしらと懐疑的だった。

「でも断ったのに付いて来たのよ」

「その言い訳は通用しないと思う」

「それでもちゃんとお父さんを説得してくれたし……」

「どっちにしても北村さんは善意には受け取らないわよ」

 さあどう弁解するのと有美子は呆れたように電話を切られた。        



                

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