回想6
旅立ちの日は朔郎からの誘いを受けて、正幸も駅に見送りに来ていた。佐恵子も一緒に連れて来た有美子を正幸に紹介した。正幸が有美子にあまり関心がないのに佐恵子は気落ちした。それどころか正幸は朔郎をはやし立てた。
「佐恵子さんが居るからこそお前は好きなことが出来るんだぞう、だから佐恵子さんをもっと大事にしろ、そうでないとトンビに油揚げをさらわれるぞ」
列車を待つ間にしきりと正幸は朔郎を冷やかしていた。
「心配ない、俺は彼女を信じている」
朔郎は笑って応えていた。事実この時期、佐恵子に対して揺るぎない信頼を寄せていた。
「私たちは本当に愛してるんですから、そんな事ある理由ないでしょう、馬鹿な事を言わないで!」
佐恵子も強く否定した。
ふたりからこれほどの反撃を食らうとは正幸も予想仕切れなかった。正幸は平身低頭して謝っていた。ふたりは正幸の失言に笑って許せる余裕があった。
朔郎を見送った三人は駅前から少し歩いた。
終始、陽気に振る舞って居た佐恵子だったが、急に朔郎を見送ると肩の力が抜けて気力まで落とした。これには有美子も後押しして一役買っているから痛いほど解った。
この変化に正幸がすぐに対応した。
「どうしたの? 急に元気ないね」
分かり切ったこの言葉に、情緒のない人だと有美子から正幸は顰蹙を買った。
「そんな事ないわ!」
佐恵子も正幸の言葉には、空元気でも敏感に突っぱねた。
肩を落とした佐恵子に、正幸は彼女の憂いを見た。いつも活発な佐恵子が垣間見せた姿に正幸はそっと優しく語り続けた。そのしつこさに有美子が呆れていた。
やっと正幸と別れたふたりは近くの喫茶店に入った。
「あの人、何なの」
ふたりがテーブル席に着くなり有美子が放った第一声だった。
「まるでハゲタカみたいに佐恵子に付きまとっていたわね」
「そうね、この春から一流企業の商社マンなんだけど。だから普段はそう云う人じゃないんだけど……」
そう云う人じゃないから有美子に紹介したと困惑気味だ。
「佐恵子は卒業なのに、北村さんは留年なの」
今日の旅には留年した朔郎の気分転換もあった。
「単位が足らないのよ、そこへゆくと正幸さんは成績抜群よ」
「まあ佐恵子の趣向はそれぐらいにして、あの人、今度の旅でどれだけ良い作品が集まるの……」
この機会に有美子は佐恵子の実家の熊本で、個展の第一号を拓く事を勧めた。
「そこへ両親を誘うのよ。朔郎さんの写真を見て感動してくれれば晴れて入籍出来る、まあ今の世の中でそこまで拘る人は京都では居ないわね、何で九州の人ってそんなに考えが古いのね」
未だに古い習慣を世襲する佐恵子の実家を、有美子はもどかしく感じた。




