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陰り逝く日々  作者: 和之
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回想5

 佐恵子は朔郎さくろうの前で笑っても、ひとりの時には塞ぎ込む。心が二つに分かれてゆく。この気持ちは自分ひとりの胸に納まり切れず、ついに学生時代 からの友達の有美子を呼び出して喫茶店で話し込んだ。

 こう云う時の有美子は派手ではないが洞察力は鋭く佐恵子とは相性も良かった。

「話を聞いてると佐恵子がターゲットにするだけあって本当に掴み所のない人なのね」

 掴み所がないのは余計で、ターゲットなんて人聞きの悪いと言いながらも、有美子も朔郎の素質を価値ある原石だと認めている。

「でも本人に自覚がない以上は人並みの家庭を持つのは難しいわよ、余程腹をくくらないと」

 朔郎は社会や世間からの評価に対して関心がない、自覚がないのだ。

「もう腹をくくったの」

 佐恵子が言うにはどうも妊娠したらしい。それには有美子も驚いた。

「それって知ってるのあたしだけなの」

 以前に佐恵子が掛けてきた電話がいつもと違って珍しく神妙な口ぶりだった原因がこれで解った。

「腹をくくったって事はお腹の子でなくて朔郎さん自身、あの見窄みずぼらしい原石をどうすれば輝かせられるかって云う話になるわね」

 見窄らしいは余計だと佐恵子は憤慨した。

「有美子ひとこと多いのよ。それよりあの人、意地っ張りなのよ。だからおだてて伸ばすのがあの人の性に合ってる」

「それで奮い立って自分を磨いてくれればね。……カメラ持って良く出掛けているって聴いたけどどんな作品を撮っているの?」

「時間とお金がないから近辺の風景ばかりだけどカメラアングルは確かに変わっている。着眼点は凄いと思う」

 佐恵子は気に入っているサービス版の写真を見せた。ありふれた場所だが角度と時間帯がありふれていなかった。

「これで誰も近づけない所の風景なら一躍目立つ作品になるわね」

 今までの写真でも十分惹き付けられる。それで実績を作ればいいスポンサーが付いてくれるかもしれない。

「まず個展を開くことね」

「あたしもそれを言うんだけど、まだ作品が少ないって言うの」

 二人は個展の作品作りに彼を邁進させる事で意見が合った。この有美子の後押しで佐恵子は迷いが覚めて踏ん切りが付いた。

 朔郎は佐恵子に言われていつも日帰りか一泊の旅なのに、思い立って何かに取り憑かれたように、急に一週間の旅に出た。


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