回想4
「自然はいい。自分を裏切らない。いつ行ってもそこで待っていて迎えてくれる。そんな時に心が緩み自然の中に溶け込める、一緒になれる」
彼の熱のこもった持論だが、自然に同調出来ても人の心だけは誰もあなたに働きかけてくれないわよ。
「こころをひとつにする相手が違うわ。そんなの淋しすぎるわ。そんな出来そこないイヤよ」
「君に解りはしない」
「あなたこそ解ってないわ。そんな血の通わぬ物に心を寄せてどうなると云うの。人は社会に生きる以上は情けを借りて持ちつ持たれつなのよ、自然はあなたに何もしてくれないわよ」
朔郎は焦点の定まらない眸で『それでいいんだ』と云う顔をして暫く黙ったが「そうかも知れない」とポツリと云った。
佐恵子は此の時から、この人の心の逃げ場所になってあげると決めた。
恋人宣言された朔郎は、佐恵子から遠ざけていた正幸をまともに紹介した。この時から佐恵子は正幸ともゆっくりと語り合った。
正幸は朔郎と性格は似ていたが考え方は全く違っていた。
此の時、正幸は一流企業の就職内定が決まっていた。彼は企業で出世して幹部になる安定した人生観を持っていた。
朔郎は大学も卒業出来るか危なかった。それどころか。
「決められたレールの上を歩くのはゴメンだ」
そう言ってアルバイトに明け暮れて、まとまった金が出来るとカメラを担いで旅に出た。
「良い作品が出来るといいわね」
佐恵子は笑っていつも送り出しても、後には期待と寂しさが複雑に混じり合っていた。
やっとあの人はわたしの仕向けた希望に向かって歩み出した。しかしその裏腹に生活に保障のない哀しさも漂い始めた。
一緒になると云う事が漠然と有った頃は良かった。それが現実味を帯びて来ると色んな障害が立ちはだかった。佐恵子はそれをひとつひとつ取り除かねばならなかった。一番大きな問題は佐恵子の両親を納得させることだった。
今のままではとても両親に紹介出来ない。早く何処に出しても恥ずかしくない人になってもらいたい焦りがあった。それでも無理をさせない、追い詰めないようにそっと見つめて、ひとつ上の目線で朔郎の前では順調に行っているように装った。




