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陰り逝く日々  作者: 和之
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回想3

 佐恵子が最初に目に付いたのは、物事に付いて彼は消極的過ぎた。信じられない出来事が多すぎて積極的になれないのは人間不信から来ていた。信頼した相手を受け入れる前に身構えてしまう癖が付いて、ほとんどの相手とは最初から受け入れようとしなかった。

 深く付き合いだすと彼にも正幸まさゆきと云う高校時代からの唯一の友がいる事を知った。朔郎は唯一の友さえ佐恵子から遠ざけて、彼女自身も正幸の上辺しか知り得なかった。

 それでも佐恵子は朔郎と云う人間に望みを抱いた。それに朔郎も良く応えて彼の理解力と感性は確実に膨らみ続けた。

「どうしてもっと人の中に入って行こうとしないの? 自分の為にも良くないわよ」

 彼の信頼を受けて佐恵子も熱がこもった分、お説教じみた言い方になってしまった。それだけに珍しく朔郎の反応も意固地になってしまった。

「人の心は移り気だ。特に本音と建前を使い分ける世間なんて息が詰まる。第一、完全な平和主義者なんて完全な欺瞞者だ」

 朔郎は珍しく興奮した。

 しまったと佐恵子は感じた。思ったより根の深い人だわ。時には世の中の矛盾と妥協して生きる事も知らねばいつか破滅する。要するに不器用にしか生きられない人なのだ。

 佐恵子が口出ししなくなると彼との会話が途切れる。あるいは彼女からの一方的な会話になる。

 干渉を控えてから彼は遠くの山を見る。と云うより遠い所を見詰めていた。けして佐恵子の話を聞いていないのでなく、問えば応えてくれた。それで気にしなくなり、佐恵子も話を止めていつしか同じように眺めた。

「何を考えているの?」

 笑みを浮かべて優しく語り掛ける。そんなとき彼は本音を言ってくれる。決して言葉を選ばない。おそらく正幸と云う人にも言えない事も云ってくれる。彼にとってそんな時間が一番嬉しい時だった。


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