回想1
佐恵子と出会ったのは学生時代だ。
朔郎は大学の中では目立たない存在だった。だがそう云う存在が佐恵子には目立った。
普通でない人間、と言っても常識を逸脱した者でなく馴染めない人。その為に世間から背を向けたそんな秘めた人に佐恵子は興味を引いた。
万人の中でなぜこの人だけが違っているのか。その疑問に佐恵子は積極的に話しかけて解り合おうとした。
大学の新学期は受け付けの窓口が混む。佐恵子もこの日に用件を済まそうと順番を待っていた。順番と云っても整列している訳ではない。窓口に近い者が我先にと用件を済ませて行くのであった。
佐恵子の前の男も窓口に到達していながら、横から割り込んだ男が先に用件を済ませてしまう。
「あなた、黙っていれば中々順番が回って来ないわよ」
じれったくなった佐恵子が口走った。その良く冴え渡ったソプラノの声で朔郎は振り向いた。
入学してから夕暮れの校庭の片隅で、時折もの思いに耽けて佇んでいた『あの人だわ』と佐恵子は子供の様に眼を輝かせた。朔郎も羨望の眼差しで見られてときめいた。
彼女は何度も人差し指で受付の窓口を指差して用件を急した。これには俄然と張り切りだして受付に進み出た。
朔郎は佐恵子の瞳に励まされて用件を済ますと「待ってて」と云う彼女の声で人垣の外で待った。
やがて彼女も用件を済ませて人垣をかき分けて出て来た。
「待った?」
彼女は屈託のない笑みを浮かべていた。戸惑いながらも朔郎も笑って応えた。
「よく見かけるけど、あなた、いつも用事があるみたいにサッサと行ってしまうけれど、今日も忙しいの?」
「い、いや、べつに……」
朔郎が言い終わらない内に佐恵子が歩き始めた。
「どこへ行くんですか」
彼も慌てて歩き出した。
「この近くに桜の綺麗な所があるんです行きません?」
彼は「ハア」と呆気に取られて気の抜けたような返事をしてからふたりは自己紹介をした。




