決められぬ就活5
電車は大きな音を軋ませて淀屋橋に着いた。綾子は前のシート座席に居た二人の男を見比べながら「どっちもどっちね」と降りた。
時計は約束の刻限を過ぎていた。だが綾子は急ぐでもなく重くもない足取りで改札を抜けた。
昼光色に照らされた通路をゆっくりと出口に向かった。ぽっかりと空いた階段の上がり口の向こうに真っ暗な夜空が見えた。それは地下通路の明るさを吸い込んだ闇のように見えた。一歩、御堂筋に出ると外は車のライトと 店の照明ライトが洪水となって溢れていた。大阪の繁華街、キタとミナミを結ぶ中心部の証しだった。
綾子は土佐堀川に掛かる淀屋橋を渡った。
朔郎は一度振り返って彼女を確かめた。しかし傍に来るまで袂の欄干に肘をついたまま川面を眺めていた。
二ヶ月前は綾子を見つけるとすぐに手を振って、目の前に来るまで見守っていた。それが今では来るのを知っていながら声を掛けてくれるまで気付かない素振りをする。慣れと照れ臭いのが染み込んでしまった。
「何を見てんの」
綾子も隣に立った。
「別に……」
川面を眺めたまま答えた。
「何が別になの。すぐに来て欲しいかったようだけど、そうでもないようね」
切羽詰まった声で呼び出しておきながら、あまりにも素っ気ない返事に綾子は眉間を寄せた。がこの人はいつもこうなのだと自分に言い聞かせた。
彼女の沈黙に背筋に冷たい物を感じて、朔郎は振り返ってようやく綾子を見た。
この人の気まぐれを、綾子は二年以上も見て来た。付き合ったのは二ヶ月だが、これが長いのか短いのか分からない。裕子は長すぎると言ったが……。
「ちょっと歩こう」
この人のちょっとはくせ者である。黙っていると何処まで歩くか分からない。それでも綾子は朔郎と並んで中之島公園に向かって歩き出した。




