表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰り逝く日々  作者: 和之
PR
134/140

一方で佐恵子は3

 朔郎は夜遅くに綾子の部屋を出て深夜に帰宅した。翌朝はスッキリ目覚めて朔郎は部屋を出た。彼は散策しながら今までの佐恵子の想い出をなぞるように歩きながら考えに耽った。自由な意志以外に束縛される恋か。そう云うならば俺は本当の恋を知らない。いや本当の佐恵子を知らない。だがもう疲れた。あの女に振り回されるのに疲れた。

 朔郎は狭山に会いたくなって会社へ電話をしたが狭山は外出していた。綾子も仕事が忙しかった。今日は無理かと朔郎は空虚なまま家路に就いた。

 地下鉄を降りて駅前で夕食を済ませてアパートに戻った。 夏の間は座卓代わりに使っていた電気こたつに少し早いが布団を掛けてスイッチを入れた。目の前のCDカセットにベートーベンのピアノソナタ月光のCDを入れて寛いだ。

 今の彼は綾子と暮らす希望で満ち足りていた。昔の正幸の裏切りが発覚しても冷静に思考出来るほど佐恵子に対して踏ん切りが付いていた。想えばこの十四年間は綾子のような女性には幾度となく巡り会った。だが結果として通り過ぎてしまった。やはり意識しないまでも佐恵子への思慕が残像していた。今も忍び寄る黄昏がかつての葛藤を連れてくるが、今は綾子と一緒に暮らしたいと考えついた。

 いつしか降っていた雨は止んだが今度は風が出て来た。風は時折窓ガラスを叩く。その内にドアも叩き出した。だが音が違った。変に思って朔郎はドアを開けた。目の前には女が立っていた。幽玄の彼方に立つ彼女の顔を見てしばし沈黙した。

「入っていい?」

 朔郎が頷くと佐恵子は咄嗟に彼の傍をすり抜けて濡れた傘を土間に置いて上がった。朔郎は困惑顔で後ろ姿を黙って見ながらドアを閉めた。

 彼女は奥の六畳の和室を見回していた。彼は表側のダイニングテーブルで紅茶を用意して奥の座卓代わりのテーブルに置いた。立っていた彼女も向かい側に座った。

「これコタツじゃないの、あなたの事だから仕舞わないで一年中出して居るんでしょう」

「まあね」

 深淵を思わす瞳を含んだまま、彼女は紅茶を一口飲んだ。


    


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ