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陰り逝く日々  作者: 和之
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正幸の無謀な行動2

 佐恵子と正幸が出た後を友美は一人で留守番をしていた。夜の九時を回りかけた頃に雄琴の病院から自宅に電話が掛かって来た。

 電話は正幸が農薬で自殺を図った知らせであった。友美はすぐに裕次を呼び出した。

 夜も遅かったが緊迫した友美の声に訳も聞かずに裕次は反応し、ひとつ返事ですぐに来てくれる裕次が嬉しかった。友美はこの時ほど裕次が頼もしく見えて、厚い信頼も受けて要るのを感じた。

 裕次が家に来ると飛び乗るように、彼の車で雄琴の病院へ向かった。

「課長がいったいどうしたんですか」

 義兄が自殺未遂して病院へ収容されたが容態は軽く、命に別状がない等を手短に伝えた。

 課長が自殺を図った事が裕次には意外と受け取っていた。友美も、義兄は一時は激しく興奮したが家を出る時はかなり落ち着いていた。だから義兄を知る状況は裕次と同じだった。

 裕次の話では正幸はバリバリと仕事をこなして社員からも信頼されて付き合いも良い。自殺を図るほど柔な神経じゃなくて塞ぎ込むタイプでもなかった。

 車を運転する裕次は可怪おかしい可怪しいと絶えず首を傾げながら正幸の説明をしていた。

「わたしにも解らないわ。お義兄さんがあんな事をするなんて有り得ない。ただ今までの裕次くんの話だと人当たりは良いけれど、自分自身はどうなんだろう?」

「そう言えば今までは、人間関係で課長自身の身に降り掛かる出来事がなかったなァ、と云うより上手くかわしている。その点はさっぱりしていた」

 裕次は大型車の通行が多い夜中の国道を避けて山中越えで滋賀に向かった。比叡山に向かう曲がりくねった幾つかのカーブをタイヤを軋ませて登って行く。 その都度、友美は裕次を諫める。

「危ないわよ」

 友美はそうは言っておきながらも微笑んでいた。

「ここから落ちれば一緒に心中ですね」

 微笑む友美を見て裕次は調子に乗った。

「何を言ってるのよ。無理しない程度に急いで」

 友美の歪な注文に裕次は眉間を寄せた。だが裕次の運転は実に上手かった。お陰で予定より早く着いた。

 病院の前には赤い回転灯を点けたままのパトカーが一台止まっていた。回転する赤い光が友美の胸を締め付けた。二人は緊急車両を横目に一瞥して急いで中へ入った。

 正幸は救急処置室で横になっていた。雄琴の個室で女が風呂のお湯を出しに行った合間に農薬を飲んだ。しかし発見が早くて解毒剤が効いて命は取り留めた。医者は気持ちが落ち着くまで今は何も聞かないように説明した。ベットに横たわる正幸は、解脱して人間界から逃避した化石のようだった。


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