佐恵子の葛藤4
「お姉さん!」
友美も追随して立ち上がった。
「なぜ止めないの。そこまでして一緒になった人を」
「まあ座りなさい、すぐに冷めるから」
「そうかしら。お姉さんが飛び出したら何をするか解らないわよ」
と言いながらも落ち着く正幸を見て座り直した。
「でも冷静になるともっと苦しくなるのに……。山男同士なら山を汚さずになぜ、どうして、もっと話し合わなかったの」
「汚すつもりじゃない、自然に帰してやるんだ。そう思わないと実行出来るもんじゃないよ、こういう事は」
「他に解決方法はなかったのかしら?」
「思い詰めるとそう云う解決方法しか残らない」
恋は命がけか、しかも手段は選ばず。それがこの人の愛なのか?
「でもそんな人を、なぜ姉に嘘をついてまで引き離して追い詰めたの」
「俺は追い詰める気は無かった。ただ闇の中を手探りで灯を求めた結果としてそうなった。あの時の若さが刹那的な生き方になってしまった」
勝手な言い分だわ。みんなそれでもめげずに必死で生きているのに。
「なぜ好きな人を信じる事が出来なかったの。そうすれば嘘は言えないはずよ。その点、北村さんは姉を信じ切っていた。その信頼を見事に裏切ったのね」
「信頼。何を信じればいいのだ。北村は自分しか信じない、いや信じられない男だ」
「今はね、だけとあの時は唯一姉さんを信じていた。そんな行き場のない人を更に追い詰めてしまうなんて……」
「たしかに……」
彼は卑屈な笑いを浮かべた。
「もう他に言う事はないかのか !」
一転して正幸は青筋を立てて、ひとこと言うと腰を上げた。正幸は自分に対して怒っているのだ。
「何処へゆくの?」
彼は障子の前で立ち止まった。
「俺も頭を冷やしてくる」
正幸は静かに障子を開けながら友美に留守番を任せて部屋を出た。




