友美は正幸の心に踏み込む4
「そうとは言い切れないでしょう、十四年前まで遡って考えてみれば」
「あの頃は友美もまだ子供だったから言うが。僕が誘惑したように言っているが、佐恵子の方で俺のところにやって来たんだ。今は俺にはある程度の肩書きが有るし、そんな事で家庭や生活を壊してどうするんだ。このさい今更蒸し返してもどうにもならないだろう」
「真実さえ確かなら別にお義兄さんが恐れる事ないんでしょう」
「そんな話をすればきりがない。僕は怖いんだ、いや怖さを知ってるんだ。この結末を……」
「どう云うこと、それって……」
正幸は障子の端を見た。
「佐恵子、そこに居るんだろう」
正幸は静かにしかし張りのある声で言った。
障子の端から「はい」と低いが澱みのない声が返って来た。
「じゃあどうして入って来ないんだ」
先ほどより更に高い濁りのない返事をして、障子に影が映り出すと障子が開いた。
佐恵子がコーヒーとお茶を盆に乗せて入って来て、正幸と友美の前に置いた。風の音が聞こえるぐらい佐恵子の一連の動作を正幸と友美は黙って見詰めていた。
正幸は佐恵子が盆を置いて席に着くのを待って口を開いた。
「最近、北村と君が会っていたのは知っていた。だが昔の俺の友達に会っていたのだから何もそんなに大騒ぎする必要もないだろう」
友美の横に座った佐恵子は飲みかけたお茶を卓に戻した。
「誤魔化さないで! 確かにあなたとは友達だったでしょうけれど、私は一緒に暮らした人なのよ。それを知っていて黙って見過ごすの」
「彼とは今でも昔の友情を信じている。それが証拠に彼が僕たち二人の事で詮索しなかったのが友情の証しだった」
佐恵子は困惑して正幸の顔色を伺った。
「あんな事が有った後であの人が詮索するはずがないわ」
あの人はトコトン探し出して乗り込んで来る人じゃない。自分に対しては執念深いが、人に対しては寛容で抱いた執念は我が身に取り込んで葛藤する人だった。だからこそ別な形で世に開花する夢を二人で見るはずだった。
佐恵子の鋭い視線を浴びて正幸はたじろいだ。そして心の中に溜め込んだ十四年間の葛藤を吐き出した。




