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陰り逝く日々  作者: 和之
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友人の狭山3

 働いているらしいか、と云いながら狭山は名刺を朔郎に返した。朔郎は難しい顔で受け取った。

「狭山、実ははっきり言おう。そのあと一週間後に会いに行ってしまった、それから会ってない」

「なぜそれっきりにしたのだ」

「昔の彼女じゃなかった」

「嘘をつけ。あの人が変わる訳がない」

 お見通しかと朔郎は薄笑いを浮かべた。

「つまらん男の意地さ」

 それで十七年も無駄にしたか、本当につまらん奴だと云って狭山は時計を見た。会社へ戻らないとやばい時間になっていた。

別れた妻の事はお前だけの胸に納めておいてくれと約束させてその日は狭山と別れた。


 辞めた会社は淀屋橋から心斎橋に向かう御堂筋沿いに在り、イラストやデザイン、イベントの企画等も手掛けていた。

 佐恵子は朔郎の写真以外に図案のセンスに目を付け、図案の仕事を伸ばす為に朔郎にこの会社を勧めた。今は仕事の大半を パソコンでやっていた。朔郎が パソコンで製作するようになると構成や色彩感覚にそれほど神経を注がなくなった。

 狭山は制作部門でなく注文や打ち合わせ等の外商部門だった。会社は地下鉄御堂筋線乗り換えて二駅だが少し淀屋橋方面に戻る。

 狭山は地下鉄を降りて本町方向に歩いていた。九月の半ばで暑さはまだ残っていたが陽射しは緩やかになり、銀杏並木の木立は長い影を落とし始めている。

 狭山と北村は同時期の入社で、部門は違ったが新人同士で唯一気が合った。お互いに同棲していることも知り夫婦どうしで旅行にも行った。だがそれも半年ばかりで朔郎が離婚してからは家族同士の付き合いは疎遠になった。以後狭山とは個人的な付き合いに戻って、細々と今日まで続いているに過ぎない。


 狭山は会社に戻り報告を済ますと今日は真っ直ぐマンションに帰った。

 家には妻の多恵たえと十五の長女と十三の男の子がいた。

 多恵は夫の早い帰宅に目を丸くして迎入れ、何も聞かず急いで食事の支度をした。いつも定時に帰宅する夫に多恵は尋ねるが、早かったり遅かったりした場合は、聴かずとも夫の方から話すからだ。

 今日も狭山は食事が始まると妻に北村に会ったことを話した。夫婦間では北村が離婚してから彼の話は久しくなかった。退職時にいっとき話題になっただけだった。


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