佐恵子と朔郎と友美4
「でもこの航海で寄港したのはダッチハーバーでしたからアンカレッジに比べれば田舎町ですよ。だからさっきの話は何度も行った乗組員からの話です」
「それでもやっぱり最北の町って、なんか、こう、情緒がありませんか。万年雪を抱く山、白夜の夏、オーロラが輝く冬の夜空なんて素敵」
この子はうわべとは比較にならないほどのロマンチストなのか ? 。
「でも今回は寄れなかったけど、本当に観光で愉しむ為に来たのなら白夜も冬のオーロラも楽しめるでしょうね。でも寄港は仕事の合間ですから。二、三日でまた荒れ狂う海に帰るんです。冬のベーリング海は凄い波ですよ。ビルの三階の高さまで船が上下に揺れるんですよ」
それを聞いて友美は不安そうに尋ねた。
「気分が悪くなりません?」
「操業中はそんな余裕はありませんよ。第一この海域に着くまで船酔いしていれば病院行きです」
「そんな海の上で病院ですか ?」
「我々の独航船が操業する同じ海域にいる母船には、医者も医療設備もありますから」
「でも北村さんの乗ってる船は大きくないんでしょう。それでも船酔いは慣れるんですか?」
何処までが興味本位か解らないが、今、目の前の佐恵子はあの時はこんな話も訊いてくれなかった。
「慣れるんではなく慣らすんです。出船からアリューシャンまでに。苦しみましたよ」
最後の言葉は佐恵子を意識して強調した。佐恵子は黙って能面のような顔で聞いていた。朔郎は気を取り直して友美を相手に話を続けた。
「なれたんですね」
そう軽々しく云ってもらいたくない反動で語気が強くなった。
「慣らすんです! でもそのままじゃ慣れません。吐いても吐いてもとにかくその都度食べるんです」
「気分が悪いのによく食べられますね、あたしならとても食欲が湧かなくて暫く寝込むしかないのに」
お嬢さんですねと朔郎は笑った。




