第5話 神降りた
真治の大学の講義が早く終わって、午後の3時くらいに帰ってきた。
「銭湯行く?」
昨日約束してたから、俺から誘ってみた。
「どこ行く気だよ? もったいぶってねーで早く教えろって」
「200円シャワーコース、精神的にヤバめな無料風呂コース、視線的にヤバめな無料風呂コース。この3つ探したんだけど、どれにする?」
「……精神的にヤバいって何?」
「それならゴミ焼却場」
「サイコパス的発想とは聞いてたけどマジで酷いな」
「でも行く人が少ないだけで、別に悪評とかはないよ」
「参考までに聞くけど、視線的にヤバい方は?」
「お年寄りのための入浴施設。家で介護してる人も一緒に入れるから一般人も入れる感じ。場違い感がエグいと思う。こいつらなんでここにいんの?っていう視線に耐えられればワンチャン。ちなみに俺は1ミリも気にしないけど」
「だよな。サイコパスって溶け込むために空気読むけど、気にしない時はマジで一切気にしねーもんな」
「どっちにする?」
「シャワーの方は?」
「区の体育館。ジャージ着ていけばフツーにいける」
「あー、ゴミ焼却場一択だわ」
「俺もそれがいいと思う。お年寄りの方に部外者が入るのは迷惑だしね」
真治と焼却場に到着。
受付で真治は免許証、俺は印鑑登録カードを提示。
「身分証に印鑑登録カード出されたの初めてだよ」
「でも区民の証明にはなるでしょ」
「お兄ちゃんたち学生さん? まあそこまで厳しくないし入っていいよ」
「苦学生で金ないんです。あざす」
真治と大浴場へ。
「身分証が印鑑登録カードじゃ確かにバイトも無理だな」
「マイナカード再発行したいんだけど、保険料払うのが痛すぎて」
「でもここマジで穴場じゃん。知らなかったわ」
「まあね、政治家の言い訳施設だから。どこもゴミ焼却場なんて建てられたくないじゃん? 住民を納得させるための飴みたいなもん」
「キレイだし広いし、使わないと損だな」
「夜閉まるのがクソ早いのが欠点だけどね。お役所のルールだからしゃーない」
帰り道、ダメンズ・ホイホイさんに遭遇。
「あ、やっと会えた……! ありがとうございます。サイコパスなんて言ってたけど、本当はお優しい方なんですね。この辺にお住まいだと思ったから、気になってたんです。改めてのお礼は今度にするとして、少しお話ししませんか?」
「へぇ、俺のこと覚えてたんだ。じゃあ喫茶店行きます? 俺ら金ない苦学生なんで、奢ってくれるなら」
「ええ、それくらい! 相談したいこともありますし」
「真治もそれでいい?」
「りょ」
3人で喫茶店へ。
「で、相談ってどういうこと?」
「会社で上司から酷いセクハラを受けてて……」
ちょい、神降りた。
「あー、ありがちな悩みだね」
「そうだな。そういうのを告発する機関とかありそうだけど」
「相談してみたいんですけど、今の会社を辞めたくなくて……」
「告発すると男でも居づらくなるからね。セクハラだと被害者側の女性の方が悪く言われたりするし」
「そうだよな……」
「悔しいことに上司は仕事ができる人で……どっちを残すか会社が判断した場合、私の方が左遷されそうなんです」
「まあ、あり得そうだね」
「クズな経営陣だな。そんな会社、魅力なんてなさそうだけど」
「会社の自社製品が大好きなんです……」
「事情は分かった。解決してあげるよ」
「そこまでしてもらうわけには……」
このチャンス、利用しない手はないね。
「遠慮しなくていいって。俺が上司に直接警告したら大人しくなるでしょ」
「ゴタゴタしません……?」
「多少はしゃーないって割り切らないと」
「それはちょっと……」
迷ってるね。
「セクハラするような奴なんて反省しないんだから、普通にやってもムダだよ」
「どうするつもりなんですか……?」
美夏さん、ちょっと頼もうかなって傾いてきた気がする。
「凡太、お前またヤバそうな提案する気だろ」
「全部解決してあげるよ、このダメンズ・ホイホイ」
「あっ、それ絶対言っちゃダメなやつー!」
「酷い……! なんでそんなこと言うんですか……っ」
美夏さんは速攻で涙ぐんだ。
「セクハラされるのなんて、チョロそうって思わせる美夏さんが悪いでしょ」
「なんで私を責めるんですか!? 相談したのが間違いでした……!」
パニくらせたら勝ち。
「結婚しよう」
「えっ……? あ、はい、お世話になります」
「凡太お前……! って美夏さんもなんで頷いちゃってんの!?」
「や、優しそうだから……守ってくれそうな気がして……」
「こいつサイコパスだから! マジでよく考えて!!」
「真治、よく聞きなよ。介入するにしても部外者だと限界あるじゃん。このままだと美夏さんが悪者にされて追い出されて終わり。美夏さんは俺を止めるフリして、俺がサイコパス手法で全部解決する」
「あなたを悪者にするのは気が引けます……」
「おいおいおい……」
「まあ見てなって」
「悪い予感しかしないんだが……」
「はい……お任せします」
「俺、まだ20歳になってない自称浪人生だし。籍入れても一緒に生活する必要ないし、美夏さんの親に挨拶行ってもいいよ? 会社にも乗り込めるし、万事解決でしょ」
「はい……っ」
「なんというか……お前のことだから100%善意じゃないよな?」
「俺いま詰んでるから。美夏さんほどじゃないけど、このままだとフリーターか派遣で終わるじゃん。田舎の実家に帰ったら親の言いなりだし、それは絶対嫌」
「私だけが得をするわけじゃないんですね」
「分かったぞ。自立できるようになるまで生活費支援しろって言いたいんだな?」
「真治、正解」
「社会人なのでお金はあります」
「美夏さん、貢いじゃってホントにいいの!?」
「夫婦なので、夫を助けたいんです」
やっぱりね。
生粋のダメンズ・ホイホイだったみたい。
どうやら、上手くいきそうだね。




