第2話 小学校からやり直せ
「ただいまー」
真治が大学から帰ってきた。
「ういー」
「凡太、エアコン使ってもいいんだぞ? 電気代の半分は出世払いでいいし」
「扇風機の後ろに、水入れて凍らせたペットボトル置いとくとフツーに涼しいし」
「……ほんの少しな。つか首にも氷巻いてんじゃん。お前、それコンドーさん?」
「ゴムの期限切れそうだったから、使わないともったいないと思って。高校のときに貰ったやつ」
「貸した千円で小麦粉買ってきたの?」
「うん、700グラム150円」
「こっちは?」
「オートミール、1キロ323円。米と同じと思えばマジお得。5キロ約1600円だし」
「値段的にもフツーの安い米とあんま変わんないな」
「オートミールってジュースでも何でもブチ込んで、4時間冷蔵庫に入れとけば完成するから。癖あるけど俺は好き」
「で、小説は書けたん?」
「まあね。『オタクゾンビ無双する』って作品を『作家になりたい』と『ヨミカキ』ってサイトに凸ってきた」
「どれどれ……あ、コメントついてんじゃん」
真治がマウスをカチカチやってクリック。
【小説になってない】
【これは酷い】
【小学校からやり直せ】
「えーっと、第1話にアンチコメが3つね」
「こいつら煽りすぎだろ! ダチをバカにすんなし。どうせお前ら夢とかねーんだろ? だから……」
「真治がキレることないって」
「悔しくないわけ?」
「ぜんぜん。初投稿だし、こんなもんっしょ」
「まあそうだけどさー……俺がなんか悔しいわ」
「返信書いてポチっとな」
「なんて書いたの? 『ならお前が書いてみろよ』とかレスバ仕掛けた?」
「理由教えてって送っといた」
「あ、次の話に速攻で同じやつからコメきたわ」
【句読点ぐらい打てよ。それと字下げ】
「言われてみれば打ってなかったわ」
「ちょい待て。アンチコメ様、お前らが全否定で正しいわ。俺が悪かった。なんで打ってねーの?」
「えっと、俺って小学生のとき国語の成績マジで最底辺だったから」
「それ何の関係があんの……高校では50点取れてたんだろ? 国語で最初に詰まったの何なの?」
「笑わない?」
「おう」
「自分の名前書けなかった」
「発達が遅れてたとか?」
「いや、鏡文字的なやつを半分くらい使ってたから」
「それってアレじゃん、天才のやつじゃん」
「ちゃうっぽい」
「どう違うの?」
「今思うと、書き順的にそっちのが書きやすかっただけ。だって鏡文字でも解読できるでしょ?」
「まあ左右反転してても読めはするけどさ……」
「でしょ?」
「もしかして、句読点打たなかったのも読めば意味分かるから?」
「まあそんな感じ」
「このサイコパスが! 基本ルールだろ! もしかしてルール(笑)とか言うタイプ?」
「法律とかルールはフツーに守るよ」
「それ聞いて安心したわ。句読点と字下げはルールだからな?」
「修正してみるわ」
修正スタート。
句読点を適当に打ち込んで、さっき公開したやつ消して予約投稿完了。
「飯にしよーぜ」
真治が速攻でくつろぎモードに入りながら言った。
「うどん打ったんだけど食う?」
「うどん作ったの!? どうやって?」
「ボウルと、すりこ木と、コタツの板と、紙と、包丁。材料は小麦粉と水と塩」
「そんなんで打てるわけねーだろ!」
「うん、クソ短いうどんだけどね」
茹で上がったうどんを見て真治が爆笑する。
「ギャハハ! 長さといいビジュアルといい、どう見ても虫じゃん!」
「イヤなら俺が食うし。製造物責任法的な?」
「製造物責任法は草。ほんとお前、センス独特すぎるわ。俺も食うわ」
「50円ね」
「金取るんかい! まあ安いからいいけど……あ、手打ちの茹でたてマジでうまっ!」
「真治、お前泣いてんじゃん。そんな美味かった?」
「俺、おばあちゃんっ子だったからさ……ばあちゃんの味に超そっくりなんだよ」
「ふーん」
「俺、カップ麺食いたかったのにさ、ばあちゃんが体に悪いからって……それで……ばあちゃん、そのときもう……。……あー、今のナシ! 忘れて!」
「それってマズいってディスられてんのか、美味いって褒められてんのか分かんねーんだけど」
「お前はエモい味とかないの? サイコパスだから気にしない感じ?」
「前に食ったことあるなーとは思うけど、別にエモくはならないかな」
「かわいそうな奴だな……」
「ありがと」
「何がありがとうなんだよ」
「俺のこと心配してくれたってことでしょ?」
「微妙に違うわ!」
「えーっと、優越感と哀れみ?」
「なんで感動しない癖に俺のメンタル正確に察してんだよ!」
「まあそんな感じかなーって」
「一部当たってんのが腹立つわ。サトリみたいな妖怪には程遠いけどな!」
鼻水垂らしまくってる真治。
「はいはい。ほら、ティッシュ」
俺が渡したティッシュで真治が鼻かんで、急にちょっとマジな顔になった。
「お前、やっぱ小説家とか絶対無理だわ。まあ、うどん屋も無理だけど」
「知ってる」
「知っててやってんの!? マジ意味不なんだけど」
「小説はなんか面白そうだから。うどん気に入ったっぽいし、たまに打ってあげるよ。50円払ってね」
「冗談じゃなかったのかよ!」
「ダチ価格なんだから払いなよ」
「はいはい、ごちそうさまでしたー」
真治が50円玉をコタツにぽんと置いた。
どうやら、真治とはフツーに上手くやっていけそうだ。
生活はマジで底辺。
真治にゴリゴリに寄生して生きてるけど、上京して初めて『楽しい』って思えた気がする。




