表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スマホのAIに質問したら異世界に転送された。クエストクリアまで帰れないらしい  作者: おっさんず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/16

第14話「草の、見分け方」

町の外れは、思ったより静かだった。



門らしき構造物を抜けると、道が細くなった。


石畳が途切れて、踏み固められた土になる。


両側に草が生えている。背が高い。蓮の腰くらいまである。



「どのくらい歩きますか」



「十分ほどだ」



リエナが先を歩く。


蓮はその後ろで、依頼の紙を見た。



植物の絵。


葉の形は楕円に近い。先端が少し尖っている。


葉脈は中央から左右に広がる——羽状複葉、ではなく単葉か。


茎は細く、節がある。



高校の生物の授業で習った話が、なぜか出てきた。


植物の同定には葉の形・葉脈・茎の断面・生育環境が重要だ、と。


保健委員とは関係ない知識だが——こういうときに出てくる。



Ariaに聞けば一発だった。


写真を撮って送れば、種類まで特定してくれた。



——でも今は自分でやるしかない。



スマホを取り出した。



コンパスを開いた。


現在地の方角を確認する。


依頼の紙に絵と一緒に、何か記号が描いてあった。


方角を示しているのか、それとも別の何かか——リエナに聞いた。



「この記号は何ですか」



紙を見せた。



「川の近くを示している。水辺に生える草だ」



「川はどの方角ですか」



「北東」



コンパスを確認した。


北東、合っている。このまま進めばいい。



―――――――――――――――――



十五分ほど歩いて、水音が聞こえてきた。



川だ。


幅は三メートルくらい。流れは穏やかで、水が透明に近い。


川沿いに草が密生している。



蓮はしゃがんで、草を観察した。



葉の形——楕円。先端が尖っている。合っている。


葉脈——中央から広がる。合っている。


茎——細い。節がある。合っている。



でも似たような草が何種類か混じっている。



依頼の紙をもう一度見た。


絵の下に、もう一つだけ描き込みがある。


小さい。見落としていた。



葉の裏側の絵だった。


裏に、細かい毛が生えているような描写がある。



蓮は草の葉を一枚、裏返した。



毛がある。



隣の似た草の葉を裏返した。


つるつるしている。毛がない。



「これだ」



声に出た。



リエナが隣にしゃがんだ。



「合っているか」



「葉の裏に毛が生えてる。絵と一致します」



リエナが葉を確認した。


少し間があった。



「……正しい。よく気づいた」



「絵をちゃんと見ただけです」



「他の奴らは大抵、形だけ見て間違える」



蓮は少し考えた。


形だけ見ると、隣の草とほぼ同じに見える。


裏の毛まで確認しようとするかどうか——それだけの差だ。



観察眼、と自分で言ったことを思い出した。


ギルドマスターの前で。



——使えた。



小さいことだ。でも、使えた。



―――――――――――――――――



採取を始めた。



依頼の紙には「両手に一抱え分」とリエナが教えてくれた量の目安があった。


茎の根元から丁寧に摘む。引きちぎると傷むらしい。



「これはどんな用途に使われるんですか」



「解熱に使う薬の材料だ」



「薬草か」



「この辺りにしか生えない。だから需要がある」



なるほど。


採取地の情報と生育条件を組み合わせれば、希少性が生まれる。


ギルドの依頼として成立する理由がわかった。



摘みながら、蓮はスマホを取り出した。


カメラを起動して、草の写真を撮った。



「何をしている」



「記録です。同じ草を次に探すとき、写真があれば間違えにくい」



リエナが蓮を見た。



「……そういう使い方があるのか」



「他にも色々使えます。地図代わりにもなる」



リエナがスマホを少し眺めた。


興味がある、というよりは——分析している、という目だった。



「お前の世界では、みんなそれを持っているのか」



「ほぼ全員」



「……便利な世界だな」



「依存しすぎてる世界でもあります」



言ってから、少し妙な気分になった。


自分のことを言っている。



―――――――――――――――――



両手に一抱え分、摘み終わった。



リエナが持参していた布袋に草を入れてくれた。


蓮は袋を肩にかけた。思ったより軽い。



「これでギルドに戻れば報酬がもらえますか」



「量と状態を確認される。傷んでいれば減額になる」



「丁寧に摘んだので大丈夫だと思いますが」



「見てみないとわからない」



リエナが来た道を戻り始めた。


蓮は後ろに続いた。



川沿いの風が少し冷たかった。


草のにおいがする。青くて、少し甘い。



現実の草と似ているようで、少し違う。


この世界の植物は全部そうだ——知っているようで、知らない。



スマホで撮った写真を確認した。


葉の裏の毛まで、ちゃんと写っていた。



次も使える。



Ariaがなくても——記録すれば、次に活かせる。



当たり前のことだ。でも今日、初めてそれを実感した。



歩きながら、そんなことを考えていた。



リエナが不意に足を止めた。



蓮も止まった。



リエナの目が、道の脇の茂みに向いている。



「どうしました」



リエナが小声で言った。



「誰かいる」

初めてのギルド依頼、薬草採取でした。


地味な依頼ですが——蓮が「AIなしで考えて解決した」最初の場面です。


草の裏の毛、気づきましたか。ああいう細かいところに蓮の観察眼が出る気がします。


そして帰り道、茂みに誰かが……。


次話もよろしくお願いします。感想・評価いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ