第12話「登録、された」
視線が、刺さる感じはしなかった。
ただ、全員が蓮を見ていた。
テーブルを囲んでいた男たち。
カウンターの向こうに立っていた女性。
壁際で剣の手入れをしていた大柄な人物。
全員が手を止めて、こちらを見ている。
蓮は入口で立ち止まらなかった。
止まると負けな気がした——そういう感覚ではなく、ただ、止まる理由がなかった。
リエナが中に入っていく。蓮はその後ろに続いた。
誰かが何か言った。
「リエナが転移者を連れてきた」
聞こえた。
翻訳魔法のおかげで意味が届く。
転移者、という単語に反応して、また数人の視線が動いた。
―――――――――――――――――
カウンターに近づくと、受付の女性が立ち上がった。
年齢は三十代くらい。
髪を後ろにまとめていて、目が鋭い。
蓮を見て、それからリエナを見た。
「リエナ。この人は」
「転移者だ。登録させたい」
受付の女性が蓮に視線を戻した。
上から下まで、ゆっくりと見た。
品定め、というほど露骨ではない。でも確認している、という感じだった。
「ギルドマスターに話を通す必要がある。少し待ってくれ」
「わかった」
リエナが壁際の椅子を顎で示した。
蓮は座った。
―――――――――――――――――
待っている間、視線は続いた。
最初ほど露骨ではなくなったが、ちらちらと見てくる人間は何人かいた。
囁き声も聞こえた。
「本物の転移者か」
「どこから来たんだ」
「魔法は使えるのか」
翻訳魔法のせいで全部聞こえる。
聞こえていることを悟られないように、蓮はスマホを開いた。
QUEST #003「██████」
進捗:░░░░░░░░░░░░ 0%
変化なし。
ギルドに来ることはQUESTの進捗に関係ない——ということか。
それとも、まだ何かが足りないのか。
リエナが隣に座った。
「緊張しているか」
「してないです」
「顔には出ていない」
「そういう顔です」
リエナが少し黙った。
「……そうか」
それきり、また沈黙になった。
―――――――――――――――――
しばらくして、受付の女性が戻ってきた。
「ギルドマスターが会うと言っている。来てくれ」
立ち上がった。
リエナも立ち上がった。
「リエナも来るんですか」
「保証人が必要だ」
保証人。
この世界にもそういう仕組みがあるらしい。
カウンターの奥に入り、廊下を歩いた。
扉が一つあった。
受付の女性がノックする。
「どうぞ」
声が来た。
―――――――――――――――――
部屋は広くなかった。
机が一つ。椅子が二つ。
棚に書類が積まれている。
窓から外の光が入っている。
机の向こうに、人が座っていた。
五十代くらいの男。
体格はいい。でも戦士というより、役人に近い雰囲気だった。
目が、落ち着いている。
「座れ」
蓮とリエナが椅子に座った。
ギルドマスターが蓮を見た。
さっきの受付の女性とは違う見方だった。
何かを測っている——でも品定めではない。
もっと静かな、計算に近い目だった。
「名前は」
「及川蓮です。蓮、と呼んでもらえれば」
「どこから来た」
「日本、という場所です。この世界ではないところから」
ギルドマスターがリエナを見た。
リエナが小さく頷いた。
「転移者、ということは聞いた」
ギルドマスターが机の引き出しから紙を取り出した。
何か書かれている。読めない。
「いくつか確認する」
「どうぞ」
「魔法は使えるか」
「使えないです」
「武器の扱いは」
「ないです」
「戦闘経験は」
「ないです」
ギルドマスターが何かを紙に書いた。
表情は変わらない。
蓮も表情を変えなかった。
「現代知識と、観察眼と、冷静な判断力ならあります」
ギルドマスターが顔を上げた。
「現代知識、というのは」
「俺がいた場所では当たり前のことが、ここでは役に立つ場合があります。具体的には——応急処置、とか」
リエナがこちらを見た。
蓮は視線を感じたが、前を向いたままにした。
ギルドマスターがまた何かを書いた。
それから、紙を一枚こちらに差し出した。
「署名しろ」
文字は読めない。
「……内容を教えてもらえますか」
ギルドマスターが少し眉を動かした。
「ギルドの規約に従うこと。依頼を誠実に遂行すること。他のギルド員を危険にさらさないこと。それだけだ」
「わかりました」
リエナがペンを渡してきた。
どこから出したのか。
蓮は紙の下の方に「及川蓮」と書いた。
漢字で。
ギルドマスターがそれを見て、少し止まった。
「……これが、お前の文字か」
「そうです」
「珍しい」
それだけ言って、紙を引き取った。
しばらく何かを書いて、小さな板を一枚こちらに渡してきた。
木の板。
何か刻んである。読めないが、たぶん名前か番号だ。
「登録証だ。Fランクからのスタートになる」
「わかりました」
受け取った。
ギルドマスターが、蓮を見た。
さっきとは少し違う目だった。
「一つだけ聞いていいか」
「どうぞ」
「お前は、帰るつもりがあるか」
ギルド登録、完了しました。Fランクスタートです。
ギルドマスターの最後の一言——「帰るつもりがあるか」。
なんでそんなことを聞くんでしょう。
次話もよろしくお願いします。感想・評価いただけると励みになります!




