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スマホのAIに質問したら異世界に転送された。クエストクリアまで帰れないらしい  作者: おっさんず


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10/16

第10話「転移者の、話」

QUEST #003「██████」


 進捗:░░░░░░░░░░░░ 0%



画面を、もう一度見た。



文字化けしている。


クエスト名の部分だけが、黒い塗りつぶしになっている。


QUEST #001も、QUEST #002も、名前ははっきり表示されていた。


なのにこれは——読めない。



「どうした」



リエナの声が来た。



意味が来た。


まだ少し、それが不思議だった。



「次のクエストが来たんですけど」



スマホの画面をリエナに向けた。



リエナが覗き込む。


眉がわずかに動いた。



「何と書いてある」



「読めないんです。こっちにも」



リエナが画面をもう一度見た。


それから蓮を見た。



「……崩れた文字に見える」



崩れた文字。


翻訳魔法で変換できないのか、それとも——そもそも文字として成立していないのか。



判断がつかなかった。



Ariaに聞きたい、という反射が来た。


次の瞬間、電波なし、と自分で打ち消す。



老人がこちらを見ていた。



何を考えているのかわからない目だった。


何も言わなかった。



―――――――――――――――――



老人の家を出たのは、それから少し後だった。



老人が「今日はここまでだ」と言って立ち上がった。


追い出すというより——これ以上は自分には関係ない、という感じだった。



外に出ると、空が橙に変わり始めていた。



現実世界と微妙に色合いが違う。


薄いフィルターを一枚挟んだような、そんな夕暮れ。



リエナが村の外れへ向かって歩き出した。


蓮はその後ろをついていく。



「どこ行くんですか」



「うるさくない場所」



村の中心には人がいた。


炊事をしている女性。走り回っている子供。


みんな蓮を見る。遠巻きに、でも確実に。



リエナが向かったのは、村はずれの井戸だった。


人の声が届かない、静かな場所。



―――――――――――――――――



井戸の縁に、二人で腰を下ろした。



「翻訳魔法が終わった」



リエナが静かに言った。



「終わりました」



「お前のことを話せるようになった」



蓮は少し考えた。



「転移者、のことですか」



リエナが蓮を見た。


驚いた、という感じではなかった。ただ、測るような目だった。



「その言葉を知っているのか」



「今、リエナが言ったので」



少し間があった。



「……そうか」



リエナが前を向いた。



「転移者、という呼び方をしている。お前のような——別の場所から来た者のことを」



「俺の前にも来た人間がいるんですか」



「ギルドに記録がある。百年以上前の話だが」



百年以上前。



蓮は数字をそのまま頭の中に置いた。


整理するように、ゆっくりと。



・転移者という言葉がある——つまり概念が存在している


・百年以上前に先例がいた


・記録がギルドに残っている



「何人いたんですか」



「記録にあるのは三人」



「その人たちは……どうなったんですか」



風が吹いた。


夕暮れの風は少し冷たかった。



―――――――――――――――――



リエナはすぐには答えなかった。



珍しい、と蓮は思った。


この人は普段、間を置かない。聞かれたらすぐ答える。


それが間を置くということは——簡単に答えられない話ということだ。



「一人は、冒険者になった」



「強かったんですか」



「記録によれば。人間には使えないはずの魔法を使ったと書いてある」



それは初耳だった。


転移者に特別な力が宿る、という可能性。


今の自分には何もないが——「今のところ」という話かもしれない。



「もう一人は」



「途中で記録が消えている」



消えている。



それが何を意味するかは、言わなくてもわかった。



「……死んだということですか」



「おそらく」



蓮は黙った。


リエナも黙った。



虫の声が遠くから聞こえてくる。


現実の夏の夜みたいな音ではない。もっと低くて、長い。



「最後の一人は」



蓮は続きを促した。



リエナが正面を向いたまま、静かに言った。



「帰れなかった」



短い言葉だった。



それだけだった。



帰れなかった。



クエストをクリアできなかったのか。


クリアしても帰れなかったのか。


それとも——別の何かが起きたのか。



聞けなかった。



うまく言葉が出てこなかった。



スマホを握り直した。


画面の文字化けを、もう一度だけ見た。



QUEST #003「██████」



——その転移者も、この画面を見ただろうか。



答えは出なかった。


でも考えることは止められなかった。



―――――――――――――――――



しばらく、二人で黙っていた。



夕空の橙が、少しずつ濃くなっていく。



「ギルドに行けば、もっと詳しくわかりますか」



「全部ではない。でも何かはわかるかもしれない」



「明日、連れて行ってもらえますか」



リエナが蓮を見た。


少しだけ、何かを測るような目をした。



「一つ聞いていいか」



「どうぞ」



「また来る気か」



一度帰ってもまた転送されることを、リエナはもう知っている。


QUEST #002のとき、蓮が突然現れたとき——リエナは驚かなかった。



「多分、来ます。Ariaがまた転送してくる」



「自分では止められないのか」



「止め方がわからない」



リエナはしばらく黙っていた。



「……わかった」



それだけだった。



「明日、ギルドに連れて行く」



それ以上でも、それ以下でもなかった。


でも蓮には、それで十分だった。



―――――――――――――――――



夜は老人の家の軒下で過ごした。



リエナが毛布を一枚持ってきた。


無言で蓮の隣に置いた。



「助かります」



「転移者は体が弱い、と本に書いてあった」



「弱くはないと思いますけど」



「今のところ、だろう」



蓮は少し笑いそうになって、表情を抑えた。



夜空を見上げた。


星の配置が違う。


当たり前だ、ここは異世界だ。


でも星が多い。現実より、ずっと多い。



スマホの画面を開いた。


バッテリーは100%のまま。



文字化けしたクエスト名を、もう一度見た。



帰れなかった転移者は、百年前に何を見ていたのだろう。


同じ画面を見ていたのだろうか。


それとも——この仕組みは、もっと最近のものなのか。



考えが途中で止まった。



——いや、今は考えなくていい。



目を閉じた。


明日、ギルドに行く。


それだけが、今できる次の一歩だった。

文字化けしたQUEST #003——何が書いてあるんでしょうね。


リエナから聞いた「帰れなかった転移者」の話、重くしすぎないように書いたつもりですが、蓮にはちゃんと刺さったと思います。


次話はいよいよギルドへ。転移者の記録と、蓮の登録。どんな扱いを受けるのか。


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