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2.ギルドに新たな来客

ーその翌日・ギルドに新たな来客ー



「さて、今日は平和な一日になるかな……?」


勇者も魔王も来ないことを祈りながら受付に立っていたところ、今度は見慣れないお姫様のような姿の女性が颯爽とやってきた。長い髪を優雅に揺らし、豪華なドレスに身を包んだ彼女は、ツカツカと受付に近づいてくる。


「ここがあの冒険者ギルドですね。噂に聞くよりも庶民的ですこと」


思わず背筋を伸ばす私。どうやら彼女も冒険者登録を希望しているようだ。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。冒険者登録ですね?」


「ええ。今日から私も冒険者になりますわ」


威厳を漂わせるその女性は、ギルドカード用の名前を書くと、にっこりとこう言った。


「――私、リリエル・ルーシェ。魔王の妹でございますわ」


「……えっ、魔王の妹さん!?」


まさか魔王ファミリーまでやってくるとは、さすがの私も予想外だ。


「あの……ひとまず、勇者様とはうまくやっていただけるとありがたいのですが」


「勇者様? ああ、兄に挑むとかいう愚かな方ですわね。でも、ご心配なく。私、勇者には興味ありませんもの」


ホッと一息ついたのもつかの間、彼女は突然、身を乗り出してきた。


「ところで、受付嬢さん。ギルドの中に、目を引くお方はいらっしゃるかしら?」


「え、目を引くお方……ですか?」


「そうですわ! ギルドの“花”として活躍する冒険者を、この目で見てみたいの」


冒険者ギルドにいる「花」って……と考え込んでいると、ちょうどタイミングよく、一人の冒険者がギルドに入ってきた。


「ルカさん、ちょっと相談があるんだが……」


彼は若手冒険者のアレックス。見習い時代からギルドでのし上がってきた、見た目も性格も“普通”の冒険者さんだ。


リリエルはアレックスをじっと見つめ、嬉しそうに口元をゆがませた。


「まあ、なんて素敵な勇者さん!」


「……彼は“勇者”ではなく、普通の冒険者ですよ?」


「いいえ、私の中ではもう勇者ですわ。どうぞ彼を紹介してくださいな」


「そ、そんなこと言われても……!」


リリエルがアレックスに興味津々な様子を見せると、彼も驚いたように目を丸くしながらも、挨拶を返している。どうやらこの出会いが、またひと騒動のきっかけになりそうだ。



ー勇者と魔王の妹の衝突ー



数日後、アレックスと頻繁に会っているリリエルを見かけた勇者が、ギルドの中で声を張り上げた。


「おい、なんだその女は! まさか魔王側の刺客か!? やはり俺には試練が降りかかる運命なのだ!」


「私は刺客ではありませんわ。勇者様、あなたには一切興味がありませんの。私の目当ては、そちらの……ええと“平凡な冒険者”さんでしてよ?」


「は、平凡な……!? 俺の目の前で平凡な奴が“勇者”扱いだと!?」


案の定、勇者のプライドに火が付いてしまったらしい。彼は剣を構え、アレックスに詰め寄る。


「平凡だろうがなんだろうが、俺にとってはすべての冒険者がライバルだ! さあ、アレックス! オレ様と正々堂々と勝負しろ!」


「え、ええっ!? 僕、普通の冒険者ですよ!」


ギルドの受付は、一瞬にして騒然。リリエルは優雅にアレックスに手を振り、「勇者様の挑戦を受けるなんて、とても勇ましいですわ」と期待の目を向けている。


「も、もう、皆さん落ち着いてください! ここはギルドですから、外でお願いします!」


しかし、勇者とアレックスは、とうとうギルドの外へ出ていってしまった。リリエルも悠々と後を追いかける。


ギルドの外、勇者とアレックスが対峙し、リリエルがその様子をじっと見守っていた。


「ルカさん、どうして僕がこんなことに……」


「ごめんね、アレックスさん。私も止めようとしたんだけど、まさかこんな展開になるとは……」


そうして見守る中、勇者が思いきり剣を構えて挑みかかるも、アレックスはあっさりとかわす。予想外の展開に、周りも興味深そうに見入っている。


「なんだ、やるじゃないかアレックス!」


「ええと……とりあえず避けてるだけなんですが……」


なんだかんだで、戦いごっこを続ける二人と、それを観戦するリリエル。ギルドの騒動も、こうして日常になっていくのだった。



ーその後・ギルドが珍しく平和な日ー



勇者とアレックスの騒動から数日後、意外にもギルドは落ち着いた日々を迎えていた。リリエルも騒ぎが収まったのか、冒険者ギルドには顔を出していない。


「今日は平和だなあ……」


そうつぶやきながら受付に座っていると、ギルド長が近づいてきた。


「ルカ、お疲れさん。ようやく騒ぎが収まったな」


「あ、本当ですね! ギルドがこんなに静かなのは久しぶりです」


ギルド長はニヤリと笑い、私を見て「君も少しは受付嬢らしくなってきた」と言う。少しだけ自信が湧いてきた私に、ギルド長はさらりと爆弾を落とした。


「ところで、ルカ。明日から“強制訓練”に参加してもらうからな」


「え!? 強制訓練って、あの冒険者がやるやつですか!?」


「その通りだ。冒険者ギルドの受付嬢としての強化プログラムだよ。受付業務はサポートだけじゃない、危険に備えて最低限の防御技術も学んでおくべきだろ?」


「そ、そんな……受付業務で体を鍛える必要ありますか?」


しかしギルド長は、私の懇願など聞く耳持たず。


「さあ、明日からは“戦場で学べ”だ」


ギルド長の言葉に、思わず体が震えた。受付嬢なのに戦場に行くなんて……なんて過酷な仕事なの、ギルドって!



ー翌日・訓練場での一日目ー



翌朝、私は恐る恐る訓練場へ向かった。すると、そこにはすでに集まっている冒険者たちの姿が。


「お、ルカも訓練に来たのか!」


アレックスが気軽に声をかけてきたが、訓練内容を聞いて愕然とした。


「最初のメニューは、走り込み10周です!」


「えっ、10周って……訓練場って、普通に見渡せないくらい広いですよね!?」


「受付嬢だろうが冒険者だろうが、まずは体力が基本だ!」


訓練教官の指示で、訓練場をぐるぐる走らされることになった私。冒険者たちは慣れたもので、軽快に走っていくのに対して、私はもうすでに息切れ状態だ。


「はあ、はあ……もう無理、足が……」


すると、背後から軽い足音が聞こえてきた。


「ルカさん、頑張ってください! 勇者も応援してますから!」


「勇者様!? なんでここに…」


ふと横を見ると、勇者が私の隣を走りながら、大きく親指を立ててきた。どうやら彼も訓練に顔を出したらしい。


「受付嬢が戦場の心構えを学ぶなんて、まさに勇者にふさわしい挑戦だ!」


いや、私は受付嬢であって、勇者じゃないんですけど……。しかも、なんで応援されてるのかわからないけれど、勇者の勢いにつられて頑張ってしまう。



ー訓練2日目・剣の稽古ー



2日目は剣の訓練だ。見よう見まねで剣を振っていると、再び勇者がやってきた。


「ルカさん、剣を構える角度が違うぞ。勇者としての心得を教えてやる!」


「え、いや……私は勇者ではないのですが…」


だが、勇者は全くお構いなしに剣の使い方を教えてくれる。正直なところ、無茶ぶり満載の訓練だけど、こんなに熱心に教えてくれるなんて少し嬉しい気もする。


その時だった。突然、訓練場の入り口に不穏な空気が流れた。


「どうやら、見物に来た甲斐があったようですわね」


ふと見上げると、訓練場の入り口にリリエルが立っている。魔王の妹である彼女は、華やかなドレス姿のまま、悠然とこちらに向かってきた。


「リリエルさん、どうしてここに?」


「おかしな質問ですわね。目を引く冒険者が訓練を受けると聞いて見に来たのですわ。勇者様もいらっしゃると聞いて」


どうやら、リリエルは私のことではなく、アレックスと勇者を見にきたようだ。さらに悪いことに、リリエルの後ろには魔王までがひょっこり姿を現した。


「人間の訓練というのは見ものだな。勇者よ、どうだ、一度この私と剣を交えてみるか?」


「出たな、魔王! 望むところだ!」


訓練場は一気に騒然とした雰囲気に。勇者が剣を構えると、魔王も負けじと応戦の構えをとる。


「ちょ、ちょっと待ってください! ここは訓練場です! 皆さん、争いはやめてください!」


しかし、私の制止も空しく、勇者と魔王の戦いが始まってしまった。どうやら訓練で強くなるには、まだまだ前途多難なようだ……。



ー訓練最終日・成果と予感ー



数日間の訓練の末、なんとか訓練を終えることができた。もちろん、勇者や魔王も訓練場で騒ぎを起こし続けたけれど、ギルドの仲間たちのサポートもあって無事にやり切れた気がする。


「あれ、なんだかルカ、ちょっとたくましくなったんじゃない?」


訓練後、ギルドの仲間たちに声をかけられ、少し自信が湧いてきた。日々の訓練で鍛えられたおかげか、前より体力もついてきた気がする。


「ありがとうございます!……でも、やっぱり受付は座っているのが一番ですね」


仲間たちと軽口を叩いていると、ふと勇者が近づいてきた。


「ルカ、これからもこのギルドを頼むぞ!」


「え、勇者様…? どうしてそんな真剣な顔で…」


「俺が魔王と決着をつけるまで、このギルドを守り続けるのだ! そして俺がいなくなっても、勇者の意志を受け継ぐ者がここにいると信じているぞ!」


……どこまで勘違いしているのか。だが、勇者は満足げにうなずき、再び修行の旅に出ると言い残してギルドを去っていった。


こうして、勇者や魔王、リリエルの騒動も一段落。ギルドには少しの平穏が訪れたが――おそらくまたすぐに新たな波乱がやってくることだろう。果たして、異世界転生した受付嬢としての日々に、休まる日は訪れるのだろうか?

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