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1.初日・出勤

気がついたら見知らぬ場所にいた。え、ここってまさか……異世界? それも、転移ってやつ? しかもいきなり「冒険者ギルド受付嬢の見習い」というお仕事スタートってどういうこと?!



ー初日・出勤ー



「はじめまして! 今日から冒険者ギルドの受付を担当します、ルカです!」 笑顔で挨拶するも、受付仲間のお姉さん方は私を見るなりため息。


「あんた、よくこの受付嬢の仕事引き受けたね。悪いけど、すぐやめたくなっても知らないわよ?」 「え、どういうことですか?」 「ま、すぐにわかるわよ。がんばってね」


何かあるの? と不安になりつつ受付の窓口で待っていると、見たこともない筋肉もりもりな大男がずんずんとやってきた。


「受付! 俺に今すぐ依頼を寄越せ! この世界を救うため、俺は最強になるのだ!」


いきなりの大声に思わず後ずさりする私。……この人、ものすごく威勢がいいけど、いったい誰?


「えっと……失礼ですが、依頼を受けるには条件が――」


「ほほう、新人受付が俺に条件を? 気に入ったぞ! 俺はこの世界の救世主となる『勇者』だからな!」


「ゆ、勇者……様?!」


「そうだ! だからな、頼みがあるんだ!」


「え、頼み……ですか? 」


「うむ! これからは俺を『勇者様』ではなく『オレ様』と呼ぶのだ! その方が威厳が出るだろう?」


「……」


転移して初日からいきなりこれ。先輩が言っていた「すぐにわかる」という意味が、どうやら早速わかってきた気がする……。



ー数日後・魔王襲来ー



「受付嬢さん、勇者の依頼はどれだ?」 低く響く声にふり返ると、なんとそこには黒装束の魔王が立っている。


「ちょ、ちょっと! なんで魔王が受付にいるんですか!? ギルドの外で勇者様に挑んでください!」


「オレにはオレの計画がある。勇者と戦うにしても、まずは依頼内容を確認し、戦略を立てたいだけだ」


え、異世界の魔王ってそんな真面目な人なんだ? と驚きつつも、魔王に「勇者討伐依頼」を渡す。


「では、作戦が決まるまで勇者には知らせるなよ」


「えっ!? そんな……私、仕事を手伝ってるだけなのに、魔王と共謀してるみたいに見えません!?」


その時、タイミング悪く勇者が再び登場。


「ルカ! 俺の依頼はどうなった!」 「ええと、それがですね、ちょっと準備中でして……」 「お、受付嬢が勇者に冷たいとは! 俺に新しい試練が! さすがはこのギルド、神々の加護が感じられる!」


こうして、勇者と魔王に振り回される日々が始まったのだった。



ー翌日・ギルドに大魔法使い現るー



勇者も魔王も帰っていき、「さすがに今日は静かかな」と思っていた矢先。


「受付嬢! そこをどけ! ギルドの情報は我が手にあるべきもの!」


「えっ!?」


突然、ギルドの扉がガラリと開き、帽子をかぶった魔法使いが堂々と入ってきた。背中には不釣り合いな大きな杖を背負い、やたらとキラキラした服をまとっている。


「おい、ギルドの情報を渡せ! 渡さぬ限り、このギルドを破壊するぞ!」


「な、ななな何をおっしゃるんですか!? ギルドの情報ってそもそも誰でも閲覧可能ですよ!? 依頼は、冒険者カードを見せてもらえれば、ほぼ自由に……」


「あ、そうなのか?」


「そうです!」


魔法使いはあっさりと納得し、何やら「魔法使いとしての面目が立たん……」とぼそぼそ言いながらカードを出してきた。どうやら噂の有名な魔法使い、「神々しき天空の知者」なんて呼ばれている人らしい。


でも、正直なところ……ギルドカードの写真と見比べても、この人が偉大な魔法使いって実感がわかない。


「まあ、ならばこの依頼を受けるぞ!」彼は勢いよく指さす。「なんでもこの依頼書には、秘宝の杖が眠るダンジョンが書かれているという……」


「あ、それ? ただの忘れ物ダンジョンですね。冒険者さんが置き忘れていく道具を一時的に保管しているだけで……宝物じゃないんです」


「なっ、忘れ物……? いや、しかし……うむ、うむ」


「それなら、こちらの依頼はいかがですか? ゴブリン討伐なんですが、少々手こずっている人も多いので……」


「仕方ない……それを引き受けよう」


どうやら威勢のいい割には、実力のほどは未知数らしい。



ーその翌日・再び勇者と魔王のバトル勃発ー



なんとか魔法使いを送り出して今日こそ平和に受付業務ができるかと思ったら、再び勇者が怒りに満ちた顔でやってきた。


「ルカ! ついに魔王がオレ様に挑んできたのだ! 受付嬢として、すべてを見届けてくれ!」


「またですか? 私、受付業務で忙しいんですよ!」


「いや、これは運命なのだ! 神も言っている! お前が見届け役だと!」


そこへ現れた魔王が、冷ややかな目で勇者を見下ろし、低い声でつぶやく。


「くだらんな。やはり勇者など相手にするのは無駄か」


「なんだと! 今すぐ戦え、魔王!」


「それはお前がすでに敗北した時に言う台詞だ」


どうやら、この二人、喧嘩というか……ただの冷ややかな口論になっている気がするのは気のせいだろうか。


「お二人とも、せめてギルドの外でお願いします! それから、勇者様。ギルドの壊れた窓の修理代、すでに三度目ですよ?」


「な、修理代……」


魔王はにやりと笑みを浮かべ、「なんだ、勇者よ。受付嬢の怒りを買ったようだな」と余裕たっぷりに肩をすくめる。


「くっ、受付嬢まで俺に敵対するのか!」


そうして、ギルドの扉を乱暴に閉めて去っていく勇者。私はため息をつくしかなかったが、その背中を見送ると魔王がぽつりとつぶやいた。


「……あの勇者、もう少し強くなると思っていたのだが」


「そうなんですか? でも……まあ、案外、そこが皆さんに愛される理由かもしれませんね」


「ふっ、愛される勇者か。ならばその愛される勇者に、少しだけ時間を与えてやるか」


そう言って、魔王も去っていく。なんだかんだで妙なバランスで成り立っているこの世界――もうしばらく、勇者も魔王も面倒を見なくてはいけないのだろうか。




その日の夜、受付仲間が「無事に一日終わった?」と声をかけてくれた。


「終わりました!……けど、勇者様と魔王様のことで毎日ドタバタです」


「まあ、受付嬢はどんな状況にも慣れないとね。さっそく立派にやってるじゃない」


言葉をかけられると、自然と肩の力が抜けていくのが分かる。


また明日も勇者や魔王がやってくるだろうけど――少しずつ、この受付嬢の仕事に慣れてきた気がする。

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