3.ギルドの新しい依頼
騒動が一段落して平穏な日々が戻ってきた……かと思いきや、ある日、ギルドに新しい依頼が届いた。
「ルカ、ちょっと変わった依頼が来たぞ」とギルド長が封筒を渡してくる。
「え、変わった依頼って……?」
封筒には「王城からの依頼」とだけ書かれている。どうやら、王城で開催される大規模なパーティーでギルドを代表して受付業務を手伝ってほしい、という内容だった。
「え、王城のパーティーの受付を!? 私がですか!?」
「その通り。受付嬢としてもいい経験になるだろう? それに、王族の目にも留まれば、ギルドにとっても良いアピールになる。どうせなら、勇者や魔王も集まるだろうしな」
いやいや、勇者や魔王がいるから不安なんですけど!
そしてパーティー当日、私はお城の豪華なホールで受付嬢として待機することになった。絢爛豪華な装飾が施された会場は、目の覚めるような美しさで溢れている。貴族たちが優雅にドレスをまとい、きらびやかにホールを歩いているのを眺めていると、ふいに声をかけられた。
「やあ、受付嬢さん! 今日も張り切っているね」
声の主は……勇者様だった。彼も招待客の一人らしく、見慣れない礼服姿で決めている。珍しくビシッとした服装で、なんだか別人みたいに見えるけど――
「勇者様、素敵な衣装ですね! お似合いです」
「はっはっは、そうだろう? 今日も気合いが入っているぞ!」
なぜか胸を張る勇者。そんな勇者を眺めていると、今度は会場の向こうから、リリエルが軽やかにやってきた。煌びやかなドレスに身を包んだリリエルは、いつも以上に堂々とした雰囲気を漂わせている。
「まあ、ルカさん。今日は王城の受付を担当しているんですの? 大変ですわね」
「リリエルさんも招待されていたんですね」
「ええ、兄も招待されたようなので」
さっそく、魔王もこの場にいるらしいことが判明。やっぱり、ただでは終わらない予感しかしない……。
ー魔王の登場とパーティーの波乱ー
案の定、時間も経たないうちに、会場の一角で人だかりができ始めた。その中心には、黒いローブをまとい、まるで闇から這い出てきたような魔王が立っていた。
「さすが王城。だが、居心地が良すぎるな」
どうやら魔王もこの豪華なパーティーを楽しむつもりらしい。勇者がそれに気づき、魔王の元へと足早に向かう。
「魔王! 貴様、こんなところで何を企んでいる!」
「何を、だと? パーティーに招待されたから出席しているだけだ。何か文句でもあるか?」
「くっ……だが、貴様がいるだけでこの場が不穏になってしまうではないか!」
勇者が苛立ちを隠せない中、周囲の貴族たちもさすがに「魔王の出席」にざわつき始めている。
ここで下手に騒ぎが起こると、パーティーが台無しになってしまうかもしれない……! 受付の仕事はそっちのけで、私はなんとかその場を収めようと勇者に話しかけた。
「勇者様、魔王様も今日はお客さんですから……せめて今は静かにお願いします!」
「だが、ルカ! この機会に奴を倒すのがオレ様の使命ではないか!」
「パーティーが終わるまでは“自制”するのも立派な勇者の仕事かと……!」
勇者はしばらく考え込んでいたが、私の懇願にうなずき、剣をおさめてくれた。ほっと一息ついたのも束の間、今度はリリエルが意味ありげに笑って言った。
「ところで、勇者様。このパーティーの“主役”は私と同席するお方に決まっているのですわ」
「なんだと!?」
リリエルはにっこりと笑みを浮かべ、今度はアレックスを連れて来た。
「こちらのアレックス様、まさに今日の主役と言えるお方ですわ」
アレックスは戸惑いながらも、無理やりドレスアップさせられ、会場に連れ出されたらしい。リリエルに捕まっているせいか、逃げることもできず、ただ困惑顔で場に立っている。
「な、なぜ俺が“主役”なんだ……」
「だって、アレックス様がいらっしゃるだけで、会場が華やかになりますもの!」
リリエルの一方的な持ち上げに、アレックスはしどろもどろに。そして、それを黙って見ていられない勇者が割り込んできた。
「待て! 勇者としての“本物”はこの俺だ! アレックスではない!」
もはや、王城のパーティー会場は大混乱。周りの貴族や騎士たちも呆然とそのやり取りを見つめているが、魔王だけは楽しそうにワイングラスを傾けている。
「人間たちのこうした宴も、案外悪くないな」
魔王、完全にくつろいでる! このままではパーティーが大惨事になってしまうかもしれない……!
ー騒動の中、ギルド長が登場ー
その時、場内に響いたのは、なんとギルド長の豪快な声だった。
「よぉし、集まっている皆さん! 折角だから、この場を盛り上げる余興でもしようじゃないか!」
ギルド長は、パーティーが予定していた余興を一挙に引き受けたようだ。王族や貴族たちは突然の宣言に戸惑っているが、勇者や魔王、リリエルたちはその提案に興味津々な様子だ。
ギルド長は会場の中央に立つと、まるで待ってましたとばかりに大きく息を吸い込むと、勢いよく歌い始めた。
「や~きゅ~う~す~るなら~♪ こーゆー具合にしやしゃんせ~♪」
その瞬間、会場がどよめき、「おお、野球拳か!」「さすがギルド長! その手があったか!」と貴族や王族までが盛り上がり始める。
「待って、え? ここで? 野球拳って、あの野球拳!?」
私が驚いている間にも、勇者が目を輝かせながら拳を構え、「ギルド長、さすがだぜ!」と笑っている。
「ふん、まあ構わん。宴を楽しむための余興ならば、私も参加しよう」魔王までが不敵な笑みを浮かべ、堂々と参加表明。
「アウト、セーフ~♪」
ギルド長の歌に合わせ、王族から貴族までもが、なぜかノリノリで「よよいのよい!」と掛け声を上げ、楽しげにじゃんけんを始めた。
勝負に負けた貴族が「はっ、仕方あるまい!」と意気揚々とマントを脱ぎ始め、それを見た周りが「おおっ!」と拍手喝采している。異世界王城パーティーのはずが、会場は謎の宴会ムードに包まれていく。
「受付嬢よ、お前も参戦するのだ」と、魔王が私に視線を向けてくるが、私は思わず全力で首を振る。
「し、しません! 私は絶対に参加しませんから!」
みんなが「野球拳」を異世界の定番ゲームのように盛り上がる中、私は一人で頭を抱えていた。
こうして、王城での波乱も一応は無事解決(?)して、私はまた受付業務に戻ることができた。
王城での騒動から数日が経ち、ようやく平穏な日々が戻ったかと思ったそのとき、新しい依頼が届いた。
ギルド長はその依頼書を持って私の前に立ち、にやりと笑った。
「ルカ、次は“竜の谷”への遠征依頼だ」
「え、竜の谷!? まさか私が行くんですか!?」
「受付嬢としても、冒険者に必要な知識は持っておくべきだからな!」
またしても次なる波乱が待ち受けている予感がする。果たして、受付嬢としての私に平穏な日はやってくるのだろうか……?




