3話
「ちょっとトイレ行ってくる」
俺は一行の中から離脱しトイレへと向かう、まだ二年生教室のある二階ではなかったのであまり誰も使用しない一年生の教室から遠い、行列に近いトイレだ。
列に並ぶ人は、トイレのある通路の逆方向からやってくるので、トイレへと続く道は三年生が並ぶスペースを越えたら人一人いない。
三年生のスペースを通り過ぎ(足早に)、右に曲がる、このまままっすぐ行けばトイレだ。
「……あれ?」
道を間違えたわけでわない、そこには見知らぬ少女がいた。
新入生かとも思ったが、新入生が此処を通るはずがない、一年生の教室は三階だ、此処に来る理由がないはずだ。
「あの……、すみません」
俺が少女を訝しげな目で見ていると、少女は知ってか知らずか俺に声をかけてきた。
「え? あ、はい」
急に声をかけられたので少し言葉を詰まらしたが、返事をする。
「職員室はどこですか?」
職員室ということは転校生だろうか、見た目からして一年生みたいなのだが。
「あぁ、転校生?」
「はい、戸松澄香です、二年生です」
二年生、同じ学年だ。
「俺は桜月和人、同じく二年生、案内するよ」
俺はそう言い職員室へ戸松さんを案内した。
・・
戸松さんを職員室へと送り二年二組の教室へと向かう。
階段を登り終え通路を左に曲がる、少し進んだところに二組の教室があった。教室に入るともう幾つかのグループになり生徒たちは雑談をしていた。
俺は有美達を見つけ、近づく。
有美も俺に気づいたのか凜香との話を中断し、こちらに手を振っている。
「お、和人じゃん」
横から声がかかった。
「お、市也」
北野市也、昨年同じ組になり仲の良かった男だ。
確か運動好きで今は野球部だったような。
「お前も同じ組だったか」
「まぁな」
「あぁ、今年でやっと優子ちゃんに会えるぅ」
「やらんぞ、バカ野郎」
優子とは、俺の妹桜月優子の事だ、妹といっても義理だが。
優子は二年前母の再婚相手の子供だ、とても優しく俺のことを慕ってくれている愛くるしい娘だ。
市也は俺の家に遊びに来たとき優子に一目惚れしたらしい、妹を大切にする俺にとっては目の敵だ、憎んではないが。
「へっ、どうかな?」
「うっせ、じゃあ俺有美のトコに行くから」
「おぉ~相変わらず~」
市也は嫌味たらしくそう言い手を振る。
俺は市也を軽く叩き後にした。
「遅くなった」
「どこ行ってたの?」
「人案内」
「優しいね」
俺は苦笑する、時計を見るともう八時二十分だった。
「もうすぐで始業式と入学式ですね」
「そうだな、優子の晴れ姿とくと見なくては」
「シスコン」
有美は痛い所を堂々と言ってきた、さすがに真面目な顔で言われると悲しいな。
「本当ですわね」
「……否定してくれよ」
俺の願いは誰にも届かなかった。
・・
三十分になり先生(担任と決まったわけでわない)が教室へと入ってきた。
「皆さんいますね」
教師はそう言い教室を見渡す。
皆揃ってはいない、一番後ろの席が空席になっている。
「はい、今から今日の日程を送ります」
いや、誰かは知らないが欠席者が一人……。教師は何も言わずに自分の操作パネルを使い皆にメールを送信する。
何故欠席者に気付かないのだろうか。
そう考えている間に、机に設置された小型モニターにメールが受信される。
『始業式・入学式 8:40~
その他は各組の担任が指示します』
と、簡潔に書かれていた。
「あ、そうです、皆さん!」
教師が皆を自分へと注目させる。
教師は続け、
「新しくみんなと勉強に励む仲間が増えました」
……え?
教室にざわめきが起こる、所々で「転校生?」と聞こえてくる。
「転校生を紹介します、どうぞ入って」
転校生……、あの空席は転校生のものだったのか。納得。
それに転校生は先ほどの戸松さんだろう。
教師の呼び声に反応したかのように扉が開かれる。
案の定教室へと入ってきたのは先ほど俺が案内した戸松さんだった。しかし緊張しているのか動きがぎこちなかった。
いよいよ教室が騒がしくなる。
「和人さん」
前の席の凜香が俺に声をかけてきた、なぜ凜香が前なのかというと、並び方が五十音順で、そのうえあ行はこの組に俺と凜香しかいないからである。
「何だ?」
「案内した方はあの方ですか?」
「おう」
俺は何気なく答える、すると凜香の顔が少し曇り目を細める。
「そうですか」
凜香はそう言い前に向き直った。
心なしかその声はいつもより嫌悪感があった。
何かしたのだろうか、俺。
「静かに」
教師が騒がしい生徒の喧騒を止める。
「どうぞ」
教師は戸松さんに笑顔で発言権を渡した。
「えと……、その、てっ転校生のとっ戸松澄香ですっ‼ 宜しくお願いしましゅ‼」
「ぷっ」
戸松さんは緊張しすぎたのか最後の最後で噛んだ。そして随分と酷な事に誰かが笑った。
「あ……、うぅ……」
涙目で教室を見渡す戸松さん、すると俺と目があった。戸松さんは潤んだ瞳で俺に目で助けを求める。
俺にどうしろと。
「そ、それでは皆さん拍手!」
教師はそれを半ば無理やり仲裁した。
皆拍手はちゃんとした、多分違う意味で。
戸松さんはまだ終始ずっと涙目だった。
教師が戸松さんを席に座らせ、再び教卓へと戻る。
「それでは皆さん、始業式の準備をして下さい」
教師に言われ俺達二組は始業式の準備をし始めた。
休み時間は騒がしくなるのだろうなぁ。
俺は一人無意味に憂鬱感に浸るのであった。




