1話
俺は汚れた服を洗濯籠に放り込み、湯船へと浸かる、先ほどから続く疲れはまだ癒えぬが、少しだけ楽になったような錯覚がする。
「ふぅ……」
ため息をつき肩まで湯船に浸かる、気持ちが良い。
「お風呂にはいってるの?」
不意に声をかけられた。
「おう、すぐ出るから」
「良いよ、ゆっくり浸かって」
「分かった」
声の主はそれだけ会話をしてスタスタといつもみたいに台所へと向かった。
「ふぅ……」
俺は再度ため息をつき、立ち上がる。
風呂の鏡の前に立ち、操作パネルをタッチしシャワーの温度・水力を設定する、その後決定ボタンをタッチし、お湯が放水される。
俺はこういう類の、いわば現代のタッチパネルやらがいまいち苦手で昔の捻るだけで放水の類の方が好きだ。
2035年、それが今年の西暦だ。
今の流行はVRMMOである。
俺も一度使用してみたこともあるが、モンスター一匹も倒せず死亡だった、なのでそれ以来まともにゲーム機すら触っていない。
意識をそれから前の鏡へと集中させる。
少し長めの前髪、鋭い目つきその他は別に大きく挙げるものはない。
明日から高校二年生、別にそれほどまで楽しみではない、と言えば嘘になるだろう、何故なら今は時刻午前12時32分なのだから。
・・
大きな欠伸を堂々と俺はする、1年前から着古してある高校の制服、胸の名札には「桜月和人」と刻まれている。桜月和人、それが俺の名前だ。
進学を祝うかのように咲き誇る桜の木の数々、散りゆく桜の花、とても美しい光景である。
「凄い欠伸だね和くん」
俺に声をかけたのは幼馴染の光井有美、有美とは昔から家族面々仲が良く、今でも俺と有美の家族で旅行に度々出かけている。
和くんとは俺のことで、小学四年生の頃からこの呼び名だ。
「お前だって昨日全然眠れてなかったろ?」
「そっそれは……」
有美は目を泳がせる。
昨日俺の入浴中に声をかけてきたのも有美で、今日が楽しみで中々寝つけずにいた俺に夜食を作りに来てくれていたのだ。
有美の料理はとても美味く、下手をすればそこら辺のレストランの腕前を上回るほどだ、それを無料で食える俺はなんとも幸運な人間である。
俺は苦笑し、有美を見る。
「ま、お前がいなきゃ俺は今頃大遅刻だ、助かったよ有美」
本心を言い、俺は微笑む。
すると有美は頬を紅潮させる。
「わたしも好きで起こしに行ってるからね」
有美はそう言い笑顔になる。
頬は紅潮しているも、いいや、しているからこそ、その笑顔は絵になる程に美しかった。
サラサラの美しい黒い髪、大きな可愛らしい髪と同じ黒い瞳、それに対し髪、瞳に合う白い肌、薄紅色の唇、可愛らしい小顔、少し大きく、存在感のある胸、すらっとしているうなじ、性格も良く、毎朝俺を起こしに来てくれたり、弁当も作ってきてくれたりするとてもいい奴、それが俺の幼馴染光井有美だ。
無理に会話を探さずに、ただ隣に立ち歩を進める、それが俺たちのスタイルでもある。
しかしそれに乱入者が現れた。
「あ、おはよ!和人くん、ゆみりん!」
俺と有美は振り返る、そこには元気にこちらへと駆けて来る、月道大学付属高等学校(略:月道高校)生徒会会長の綾瀬琴音とその後ろで姉の羞恥に顔を赤らめている妹の綾瀬凜香の姿があった。
ゆみりん、とは有美のことで本人はこの呼び名を渋々受け入れた。
「お姉様っ、みっ見っとも無いですわよ……!」
凜香は琴音さんの態度にとうとう痺れを切らしたのか、だが羞恥には勝てなかったため少々声が小さく怒鳴る。
様々な視線が俺達へと向けられる、奇異の視線や、嫉妬の視線その他……。
そういう視線の類には慣れている、嬉しくもないスキルだが。
「おはようございます、琴音さん、凜香もおはよう」
「おはようございます」
俺と有美は順で挨拶をする。
「おはようございます、二人とも」
凜香もそれに応じる、この姉妹の親は大手本屋の社長とか何とかで、いわゆるお嬢様、なのだ。
姉の琴音さんはとても美人で月道高校の生徒会会長だ、だが小悪魔的存在で周りの人を翻弄するエキスパートだ、それでも憎めない俺達も俺達だが。
妹の凜香は高貴なお方で琴音さんとは違い可愛らしい顔をしている、でも周りの人にツンツンしている、実はとても優しい良い娘なのだが、感情表現が苦手なのだろう。いつも姉の世話に手を焼いていて母みたいで、でも子供っぽい一面もある。
そんな反する性格を持つ二人はとても良い姉妹だろう。
「また一緒の組だといいな」
俺はそう凜香に微笑みかける。
「べっ別に違う組でもいいですけどっ‼」
凜香が顔を赤くする。
「またまた~、ホントは一緒になりたいんでしょ~?」
「おっ思ってませんっ‼ からかわないでください!」
琴音さんが凜香に意地悪く追及する。
だがさすがにそこまで言われるのは酷だ……。
俺は苦笑し有美に語りかける。
「有美も一緒だったらいいな」
「うんっ」
有美は笑顔で即答してくれた、いい奴だな、とつくづく思う。
俺の表情も自然と笑顔に変わっていただろう。
「あぅ……」
すると凜香は何故か少し悲しそうに表情をし、言葉を詰まらした。
琴音さんが凜香の肩をポンポンと叩く、慰めているのだろうか、以外にも心優しい姉なのかもしれない。
「さ、行こうぜ」
早くしなければ校門にもの凄い人数が押し寄せ、まともに歩けなくなるからである。
みんな頷き、少し足早に学校を目指す俺達一行だった。




