12話
午前九時四十三分
俺は今待ち合わせ場所の自宅に近い駅に居る。
こんな時間に出てきたのはあの人を待たせると怖いからだ。
……にしても、
「人多すぎるだろ……」
俺は嫌そうな顔をしていっただろう。
日曜日はこの駅はよく混むがこの時間帯も混むなんて予想を超えていた。
確かにこの駅は大きいしこの辺一帯に此処にしか駅が無いのは知っていた。これは完全な情報不足だった。琴音さんも誤算だろう。
あ、同じ組の女子発見。
あ、三組の男子発見。
あ、極悪非道の泥酔女発見。
あ、市也発見。彼奴の母さんも発見。親子で買い物か。
あ、有美発け……何で有美がいんだよ!? 何かコッチちらちら見てくるし。うわー不審者。知らないふり、知らないふり。
それよりこの駅、月道の奴らが多すぎるだろう。
これはより目立たないことを強いられ……
「和人~!!」
「ぶふぉ!?」
周りの月道生徒が琴音さんを見て感嘆の声やらなんやらを挙げる。
いきなり俺の計画破綻したぞ。
あの人一体なんだよ……。
「はぁはぁ……、待った?」
「あのですね琴音さ……ぬぐ!」
俺がしゃべると急に琴音さんが俺の口に指を当てた。
すると今度はまた違う声が喚きあがった。
無関係な人たちはとても迷惑だろうな。
にしても……恥ずかしい。
「琴音、でしょ?」
ウィンク、本当にサマになってる。
「わかったよ、琴音」
すると急に琴音の顔が赤くなった。
やはり周りの状況に気付いたのだろうか。
何か三組男子が俺を睨みつけている。彼奴が告白した奴だろうか、いや三年生が告白したらしいから違うか。
「さ、行きましょ」
すると琴音は俺に腕を絡ませてきた。
良い香り鼻孔をくすぐる。
しかも驚いたことに琴音の服装は白いワンピースだ。
「危険だ……」
俺はそう本心を零す。
・・
「和人~」
「何だ琴音~」
一応ノッてやる、だが忘れないでいただきたい、この二人は決して付き合っているわけではない。しつこい負け犬に、琴音に嫌というほど付きまとうストーカー人生まっしぐらに見せつけるためだ。
手を繋いで、俺は嫌な顔だけど、なるべく楽しそうに振舞う。
「どこ行く?」
「おう! お前とならどこでも楽しいさ!」
「え…… ホ、ホント?」
琴音は何故か顔を赤くして俺に上目遣いで尋ねてくる。
「え、あ、うん」
「あっありがとっ!!」
琴音は嬉しいのか悲しいのか涙目になりながら俺に抱き着いてきた。
待って! ここ公衆の面前!!
「うおっ! 琴音!?」
琴音は俺の胸に頬を擦りつける。
……ま、これで奴が諦めてくれるなら良いか。
あ、有美発見。なんか怖い……、凄いコッチを睨んでくるんだけど。いやこれは……。はぁ、後で弁解しなくては。
・・
一通りの買い物を済ませ、俺達はハンバーガーを一緒に食べていた。
意外にも琴音は肉が好きなようでウキウキしていた。何か有美がいるけど気にしないでおこう。怖いから。
「おいしいねぇ、和人」
琴音は何がそんなに嬉しいのか、先ほどからにこにこしている。
「そうですね」
俺の思い込みか琴音は今日俺の名前を事あるごとに呼んでいる。
「また敬語使ってるゥ」
「ご、ごめんごめん」
俺は急いで謝ると琴音はにっこりとほほ笑んで満足げに頷いた。
すると俺の携帯が鳴り響いた。
「……ちょっとごめん」
琴音は不思議そうに携帯を見て、すぐに頷いた。
電話相手は戸松だった。




