10話
琴音さんとデートの約束をしてしまった俺は今日も病室でおとなしく読書をしていた。
今はもう二十一時三十五分。
キリの良い所まで読んで寝る、それが俺の就寝前の行動だ。
そしてキリの良い所まで読み文庫本を閉じる。
「寝るか」
明日から普通に学校通い、自宅にも戻れる。今日は大変だった、琴音さん、有美、凜香、母と優子、市也、佐藤、そしてまた有美。これが今日来たメンバー、また順番。
来週末は琴音さんとの買い物。今からしっかり体力をつけなければ倒れてしまう可能性がある。安静に。
すると、扉が開く音がした。俺は音に反応し、扉を見る。そこには戸松ともう一人、一目で言うならば黒髪美人の若い女が立っていた。
「戸松、誰だそいつ?」
「ま、失敬な、わたしは守護者の先輩だぞー」
「……」
俺は無言でその女を訝しげな目で見つめる。
「いやーん、見つめちゃヤーよ」
「おやすみ、面会時間は過ぎてんだ帰れ」
俺はそう言い放ち布団に潜り込む。
「和人さん! この人はわたし達の組織の先輩だよ」
「知ってる」
「キャー! ツンデレね!? ツンツンデッレデレのきゃわいい子ね!?」
うっ、うざい。この人無駄にテンション高い。苦手ではないが暑苦しい。伝染病でなければいいのだが……。
「ごめんね、こんな人で、行くって言ったら聞かないから」
「明日からまた学校なんだ帰ってくれ」
すると急に何者かが俺の上に飛び乗ってきた。
「澪さん!」
澪というのか、重いからどいてくれ、そんなこと女性に言ったら殺されるんだろうな。言いたいが言わない、命が惜しいからな。
「どけ」
我ながら冷徹だと思う、だが気にしない、気にしたら負けなような気がする。
「いやーん、クーデレか!? クーデレなのかぁ!?」
何だクーデレとは、そんな単語初めて聞いたぞ。
「ごめんなさい、和人さんこのまま話していいかな?」
「面倒だが、頼む」
「うん、この人は黒宮澪、ちょっとテンション高いけど気にしないで、優しい人だから」
ちょっとどころでは無ような気がする、しかもこの人、優しいのか。信じられん……。
「うわっ」
急に掛布団が澪にひったくられた。一応病人なのだが。
「寝かしてくれ」
「ヘイ、カモ~ン、わたしも一緒に寝てやろうか~?」
「みっ澪さん!!」
「ぶふぉ!?」
急に戸松が走り出し澪の脇腹に肘をぶつけた。
……戸松には逆らわないでおこう。
「いい加減にしてください、第一不法侵入したんですよわたし達」
俺はナースコールのボタンへと手を伸ばす、不法侵入なら通報しなくては。俺は善人だからな。
「まてぇい!」
「うおっ」
いつの間にか復活した澪が俺へと抱きついてきた。柔らかいものが俺を包む。
「止めっ!! 止めなさい!!」
「きゃあん」
戸松が澪の尻を蹴り上げた。うぅ痛そう。
澪は色気もない悲鳴を上げる。
「何しに来た」
「ハハン、きゃわいいクーデレちゃんに知識を与えに来たのだ。そのイチィ!! わたしを敬えぇ!!」
「ヤダ」
俺は即答する、こんな人を敬うくらいなら戸松に従う方が幾分かマシだね。
戸松を見ると脱力感に浸っていた。
「さすがクーデレ、手強い」
だからクーデレとはなんだ、何の種族だ。
第一何に手強いんだ、いや、もう面倒だからいいや。
「用件を済ませてさっさと帰れ」
「わかったわ、明日お姉さんと何処か……」
「行かない」
俺は澪が言い終える前にきっぱり断らせてもらった。
「ちぇー」
澪の反応が一々大きすぎる、本当に早くしてくれ。俺はそういう意思を込め戸松を見る。
「はぁ」
しかし戸松は俺の意思、もはや視線にも気づかずため息をついていた。
「……澪さん、教えてくれませんでしょうか? 情報とやらを」
「デーレーター!! キタコレッ、デレやしたぜ旦那ぁ!」
「教えてあげてください、煩いです」
「はい」
有美の一声に澪は恐怖のためかすんなり言うことを聞いた。
「まずはぁ、裏切ったらコロス」
俺は第一声に驚く、コロス……ですか、裏切る予定はないけど怖い。
「そしてぇ、死ぬ気で頑張れ」
「イエス・サー」
澪が敬礼をしてきたので俺も何となく敬礼しかえしてやる。
すると澪は満足げに頷いた。一瞬でも可愛いと思った自分を殴りたい。
「博士にはあんまり会えないしぃ、わたしも会ったことないしぃ」
ほう、それはそれでありがたいお言葉だ。俺は奴には当分会いたくないからな。できれば一生。
「他にはぁ、政府とはバキューン、ドキューンをたまにするよー、死んじゃヤーよ」
「何怖いこと笑顔で言ってんだアンタは」
その言い方じゃ死人は度々出るってことか、国民の味方と戦うのか。
……え?
「犯罪じゃねぇか!?」
「しょうがないんです、残念ながら」
戸松の冷たい一喝が飛んできた。確かに俺はそれを承知で入ったんだ今更どうこう言えるはずがない。
「うんうん、まぁこの日本に確認されている紫石は君のと組織のも合わせて四個、後は世界各地にばら撒いてあるんだって、わたしと君と、とまっちとその他は日本の紫石の回収だよっ」
とまっち、とは戸松の事だろうか。言葉からして付き合いが長いということが感じられる。
「俺の能力は?」
俺は前にも聞いたが一応聞く。
「わーかーりーまーせーんー、次のバキューンの時に君も入ってもらうからその時に判るよー、多分。護衛にはとまっちを送るから」
「なっ!? 戸松も戦うのか!? 危ないんじゃ……」
女の子だぞ、平気なのか?
「和人さん、わたしGFの中で結構喧嘩強いよ」
またもや冷徹な声でそう言う。
GF、とは俺の実父の一宮を守護、紫石の回収を目的とする集団“ガーディアン・フェイク”の略称だ。
しかし戸松がそんなに強いなんて。
「わかった」
「それと、その石は回復力に長けてるし、何より何らかの能力が身に付く。それが良いとこです」
だから俺は昨日の内に体の不調なところが治ったのだ。
「ただし、その石は持っていられるのが二十歳までです」
「そうなのか?」
俺は内心ほっと胸を撫で下ろす。
ずっとこのままは嫌だったからだ。
「でも何で」
「知らないよー」
澪が欠伸をしながら俺の質問に答える。
「それと、和人さん」
「なんだ?」
俺は戸松の方を振り返る。
「このことについては口外してはなりません」
「……あぁ」




