9話
「何で、貴方が此処にいるんですか?」
「あら、昨日連絡もくれずにわたしをのけ者にした人が何を言ってらっしゃるのかしら?」
「う……」
俺は言葉を詰まらせる、あれは確かにそうだった。昨日倒れた俺は結局今日の朝まで琴音さんに連絡の一つも入れてないのだ。
そして朝食から戻ると(別に看護婦さんが運んできてくれるが俺は重症ではないので食堂に食べに行ってる)琴音さんが待っていたぞと言わんばかりに椅子に座っていた。
連絡し忘れていた俺も悪いのだが。
「まずどうやって此処に入ったんですか?」
この病院の病室は、その病院で働いている看護婦、医師、その病室の人、病人の認めた人のみ開けれる仕組みになっている、昨日いなかった琴音さんはもちろんの事そんな作業をしていないので入れないはずだ、ちなみに病人が「開け」といっても開く。
昨日有美が入ってこられたのは、優子の指紋確認して入ったのだ。
「看護婦さんに頼んだら普通に開けてくれたわ」
そう言いウィンク。
この病院の防御力が意外にも低すぎた……。
「仕事はどうしたんですか?」
「風邪ひいたって言ったわ」
「100%サボりじゃねぇか!?」
おっと、ツッコんでしまった。
だが琴音さんは気にした様子もなく俺を何が楽しいのかにこにこしながら見つめる。
「わたしだって心配したのよ、凜香から聞いて。なのに連絡が無いから」
凜香か教えてしまったのは。
昨日は少しいろいろと忙しかったので連絡する暇がなかったのだ。
「貴方が心配ですか? 想像がつきませんね」
嫌みたらしく俺は琴音さんに言う。
「あら、心外ね。なら凜香にでも聞いたら? わたしが泣いてたかって」
本当に想像がつかない。でもそこまで心配してくれてたならなんか申し訳ないな。
「そうですか、心配かけました」
「だから一つだけわたしの頼みを聞いて?」
「嫌ですよ」
ろくなことにならないのは知っている、だから協力しない。
「心配したのに……」
琴音さんは瞳を潤ませながら上目遣いで俺の瞳を捉える。
……危険だ。
琴音さんのフワフワに巻いた長い黒髪が一度揺れる。
「……わかりました、ただし俺に出来る範囲のお願いで」
俺はこの瞬間全てを後悔した。
琴音さんは悪戯っぽく笑っていたのだ、子猫の皮を被った悪魔め。だが前言撤回はあまり好きではない、仕方がない。従うか……。
「来週の土日にデートして」
「ぶふぉ!?」
俺はいきなりなお誘いに、口に何も含んでないが吹き出す。
何故なら彼女、月道大学附属高等学校三年、現生徒会会長の綾瀬琴音は学校一の美少女なのだ。それが俺にお誘いって……。
「またですか?」
しかもこれが一度ではない、幾度となく琴音さんには言寄られたことがある。
「また告白されちゃって、和人君を彼氏にしちゃった」
彼女は舌を出し頭に拳を当てる。その姿が無駄にサマになっていたので反撃する気にもなれなかった。
そう、彼女は学校一の美少女が故告白されるのも日常茶飯事、去年のバレンタインデーは凄かった、この話はまた後日。
「そしたらその人諦めなくてさぁ、今度デートするって言ったら見にくって言うんだもん」
「負け犬の遠吠えですかね」
しぶとい奴だな、琴音さんにも想い人くらいいるのに。でも恥ずかしいからって毎回俺を彼氏にするのは止めていただきたい。
嫉妬で俺この前喧嘩売られたんだから。だがそれは口にしない。
「その人三年生よ?」
「へぇー」
何故そんなこと言うのだろうか。
「……年上にそんなこと言っていいの?」
「え? あぁ、本当じゃないんですか?」
「無自覚」
……はい?
まぁいい、これ以上追求したら面倒なことになりそうだ。
「それで時間は」
「午前十時」
「……というか、俺病人なんですけど」
それは嘘だった、この紫石は回復力にも優れていてもう昨日の内には治っていた。だが琴音さんをからかうのにはちょうどいいだろう。
「嘘ね、その調子だと昨日には治ってたでしょう?」
テレパスめ……。
この人は観察力が良いからな、多分。
それかただ単に俺がわかりやすい奴なのか。
「はい、午前十時ですね。楽しみにしておきます。……さぁ帰った帰った」
「いーやっ、今日はいっぱい居るの」
「じきに有美も来ますから、さぁ」
俺はしっしっと手でやるも琴音さんはオール無視。意地っ張りめ。
すると急に琴音さんはにこにこしながら俺を見た。
なんだか怖い。
「ど、どうしたんですか?」
「ふぅん、和人君はわたしよりゆみりんの方が良いんだぁ」
「別に有美のが良いってわけじゃ……、いや、有美のが良いです、さぁ帰った」
うん、そう思ってもらった方が手っ取り早い。
……え?
すると急に琴音さんが頬を膨らませて俺を見つめた。その姿は子供っぽく、でもどこか危険な色香を帯びていた。矛盾しているのに存在する。
琴音さんでもこんな顔をするんだな、初めて知った。
だが琴音さんの気を落ち着かせるためにも本当の事言うか。
「冗談ですよ、みんな平等です」
本心を述べるも琴音さんの頬の膨らみは消えなかった。
……何故?
「わたしはみんなと平等なのね、わたしは違うのに」
琴音さんは俺に聞こえないようにか小さく何かを呟いた。
「はい?」
「別にっ」
えぇー。琴音さんも有美みたくそんな言い方してそっぽ向かいないで下さいよ。
重い沈黙。
何をしゃべろうか。
「和くんっ来たよー!」
俺がそうこう考えてる間に有美が病室に突入してきた。
「お、有美」
先ほどの話題の人間有美の登場。
すると有美は琴音さんに気が付いたのか動きが止まった。対する琴音さんは有美を見て柔らかな笑みを浮かべていた。
「あはよー、ゆみりん」
いつもの調子に戻って挨拶をする琴音さん。
「え、あぁ、おはようございます」
「まぁ、わたしはこれで、じゃあ和人君週末宜しくっ」
琴音さんは悪戯っぽくウィンクして病室を後にした。まだいるんじゃなかったのか。
有美を見ると何故か俺をじーっと見ていた。
「なんの約束したの?」
「また告白されたんだと、証明のため来週末琴音さんとデート」
俺は先ほどの流れを一言で説明する。
「また!?」
有美は突然叫んだ。
「また」
「はぁ……、良いなぁ先輩」
何が良いのだろう。
「何が?」
「和くんをデー……あ、なっ何でもない!!」
有美は途中で言葉を切り顔を真っ赤にしてそう叫んだ。
よくわからん。




