夜会の準備って大変?!
今まで、こんなにもたくさんの人に身体をいじくりまわされた事は無い。
女性陣の圧…コワイ
私の、嫌だとかいう拒否の言葉は、彼女達の勢いの合間に消えてゆく。
風呂に入れられ、ひん剥かれて、泡だらけにされ、擦られ、流され、拭かれたと思ったら、今度は全身にオイルを塗られてマッサージされる。
ちょっと待て!
夜会だよ、夜会!
首から上と、ドレスだけで良くない?!!
痛い!痛いってば!
顔が死ぬ!
足もーーーー!!!!!
余分なオイルを肌触りがメッチャ良いタオルで拭い取られ、ようやく下着を着せてもらえる。
こんな人数の前で、素っ裸だなんて、恥ずかしさを通り過ぎて、心細すぎる…
ガウンのようなものを着せられ、部屋に戻り椅子に座らされ、この鏡台、絶対この部屋になかったよね?!というくらいにドデカい鏡の前に座らされ、マッサージ中から続くタオルドライの後、温風で乾かされる。
あー、他人の魔力で乾かしてもらうのって、不思議…
髪にもオイルを入れられ、何やら複雑な髪型に仕上げられてゆく…
…殿下、くれぐれも、今日は私の頭を触らないでください…
鏡の向こうに、トルソーにかけられたドレスが持ち込まれるのが見えた。
…あれ?
ドレス違くない?
疑問を口にしようにも、髪を引っ張られ、顎を掴まれ、あっち向かされこっち向かされ、顔面も大改造だ、コレ。
立ち上がらされたと思えば、コルセットとストッキングにガーターベルト。
え、それ、やっぱり私が着るのよね?
「ドレスが違うのでは???」
やっと、言えた。
前回は、ネイビーから赤へのグラデーションが美しいドレスだった。
今回は、胸元が紫で、足元に向かって深い青、そして膝から下に、金の刺繍。
用意されているブーツも金色だ。
「お気に召しませんか?」
ルヴィルのカンナ様が心配そうにこちらを見る。
「…とても綺麗です、とても」
お金持ちには、なったけどさぁ。
このドレスのお値段、見当もつかない…
呆然としている間に、ドレスの着付けが始まる。
「入りますよー」
というお母様の声が、いつのまにか立てられた衝立の向こう側から聞こえる。
「わ、凄いわね!流石王室!!」
私の気も知らないお母様がとても呑気におっしゃる。
心の底から代わって欲しい。
「そちらのドレスも素敵ねぇ!ダリウス殿下、センス良いじゃない?」
…ダリウス殿下センス良いじゃない?!
フプリーは首をぐるりと回して、カンナ様を探す。
「ダリウス殿下の仕業ですか!?」
「…仕業って」
カンナ様が絶句してるが、フプリーは脱力する。
「殿下のカラーなんだから、殿下の注文に決まってるじゃないの。婚約したの、忘れたの?」
…忘れたい。
そもそもここは殿下の部屋らしいけど。
「お父様はギリギリになりそうだから来れないけど、会場で会えるかしらねぇ」
収穫祭には領地持ちの領主は必ず参加する。
地域によっては既に地元の収穫祭を終えているところもあるようだが、カルマン家は王都の収穫祭の後に領地の収穫祭があり、実際の納税は年末となる。
収穫祭では今年の収穫を終えていればその報告を、終えていない地域は見込み量を報告するのだ。
その他にも、鉱山や酪農、漁業、貿易など国が税をかけている項目は多岐に渡るが、祭りの形式で報告のパフォーマンスがあるのは農業の収穫が主で、たまに領地によってはメイン産業の売上報告をするところもあったりはする。
今年は頑張ったからコレだけの実りを得ることができましたよ〜の報告会は、魔法陣を維持する王家への感謝を示す場でもある。
そのめでたい場に、魔法学校と国立学校の卒業生は招かれるのだ。
未来の王国を担うものとして。
何も報告するものはないので、収穫祭では卒業生の謁見はない。次に陛下の謁見があるとしたら、新人官僚たちは新年の祝賀会だろうか。
…あれ?私もそれに出るのかな?
「ああ、私はもう行かないと。じゃあね!また後で、会えたらね!」
慌ただしく出ていかれるお母様に手を振る。
「あら殿下!フプリーに素敵なドレスをありがとうございます!!ごめんなさい、殿下より先に着てるところ見ちゃったわぁ!フプリーをお願いしますねー」
すっごい軽い口調だけど、もう、良いのか。良いんだな?
伯爵家はギリギリ高位貴族とはいえ、夜会会場への入場はそこそこ早い。男爵位はほぼ領地がないし、子爵家でも、領地無しの家が多いということだろう。
「フプリー、入って大丈夫か?」
既に疲れているフプリーは応える気も起きずにいると、年配の侍女がどうぞと応じる。
殿下は私を見て、疲れ果ててるな?まだ始まってもないのに?と、相変わらずだ。
侍女に指示して、スカートの中に小さな椅子を入れてくれたのでフプリーは半ば脱力してそこに腰掛けた。
胸元に、それはそれはご立派な宝石タイプの魔石。
腕輪の魔石と同じ鮮やかな紫色。
あー、そうか。
他の王家の方は青い瞳だけど、そう言えばダリウス殿下は紫がかった瞳の色をされている。
…フォーリア様も、紫だったかな。
髪飾りは、フプリーの錆色の中にあって鮮やかに映える金色でまとめられていて、使われている宝石もほぼ金色だ。
頭のてっぺんと足先は金で真ん中は紫色なのねー。
歌劇でよく見たなぁ、このシチュエーション。
こんな、なんとも中途半端な気持ちになるものなのね…
ふと、殿下を見れば、私のドレスと同じ生地を使ったと思われる衣装。お色はドレスの裾あたりと同じ、深い青からさらに暗く濃いネイビーにグラデーション。ポイントに使われているチーフは赤。これもグラデーションで錆色になるから、それは絶対私の髪色よね?
私に下さったものと同じデザインの腕輪には、鮮やかな緑色の魔石。コレはきっと、私の鶯色の瞳の色のイメージか。
その視線に気づいて、殿下は腕輪を外してフプリーに手渡す。
「魔力を込めてくれ。そちらの腕輪にも、魔力を追加しよう」
盾か。
そんなことを考えていたら、支度が終わったようで、最後に手袋だけ渡されて、カンナ様とお支度隊が退出して行く。
代わりにエルヴェ様が軽食とお茶を乗せた台車を押して入室してきて、殿下に挨拶をしてすぐに退出された。
「収穫祭では食事も出るが、我々はほぼ食べる時間がない。水分は取れるがな」
そう言いながら、お茶を淹れてくれる。
お茶、淹れられるんだ…
殿下に視線で促され、腕輪に魔力を込めた。
あ、結構持っていかれる。
それに気づいたのか、殿下は茶器を置いてこちらに来る。
手を取られて。
あー、なるほど?
指先への口付けとともに、また、魔力。
抜けた分を補うように、殿下の魔力がフプリーの中に満ちる。
殿下は満足げに腕輪を受け取ってつけると、ワゴンをそばに寄せる。オードブルを小皿に取り分けて、フォークと共に手渡してくださる。
「茶が先に欲しいか?」
「…いえ、こちらを先にいただきます」
なんだろう?この至れり尽くせり感。
殿下はそばのソファに座って、付けた腕輪を眺めている。
口元が上がっているから、満足しているのだろう。
声をかければ、お茶も手渡してくださる。
ほんと至れり尽くせり。
ダリウス殿下がご機嫌だ。
まぁ。
機嫌の悪い人のそばにいるより、機嫌の良い人のそばにいる方が居心地は格段に良い。
係の人が呼びに来るまで、フプリーはご機嫌な殿下をただ眺めていた。




